救缶鳥プロジェクトを立ち上げたパン屋 -株式会社パン・アキモト

経営

西浦道明のメルマガ 2020年4月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載68回目の今回は、栃木県那須塩原市で、パン・パンの缶詰の製造販売を行なう株式会社パン・アキモト(以下、P社)の池クジラぶりを見ていきたい。

P社は1947年、現社長の秋元義彦氏(以下、A氏)の父親が秋元パン店を開店した。

元々那須塩原市の「まちのパン屋さん」だったが、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災直後、被災者救援のためトラックで焼きたてパン約2000食を運んだことをきっかけに、A氏はパンの長期保存ニーズがあることに気づき、缶詰開発を始めた。

実に1年半の期間を要して完成した商品は、最長3年間の賞味期限という、長期保存性と美味しさを兼ね備えるものとなった。

パンの缶詰が完成したものの、次の課題は認知度向上だった。

開発当初「カンカンブレッド」と名付けて発売したが、全く反響がなく、3年くらいはほとんど売れず、面白グッズ的な扱いしかされなかった。

それでもA氏は、パンの缶詰は日常的な食品ではなく、非日常的な食品であると考え、信念を貫いた。

そこで、「防災の日」の記念イベントに参加したり、自治体にプレゼントしたり、災害備蓄食として、その存在を知ってもらうことに努めた。

そんな中で、認知度向上につながったのが、2004年10月に発生した新潟県中越地震である。

納入先の企業・自治体から義援物資として送られたパンの缶詰が多くのニュースで報道された。

さらに学校給食でもパンの缶詰が出され、災害現場に調査に入った専門家にもパンの缶詰が配られた。

これを契機に一気に知名度が上がり、災害備蓄用として多くの注文が入るようになった。

現在では、日本をはじめアメリカ・中国・台湾の4ヶ国で特許を取得し、選べる種類も13種類に増えた。

結果、日本全国およそ250社を超す企業・自治体が備蓄食として大量購入してくれている。

今現在、パンの缶詰は、P社売上の7割を占めるに至っている。

このように、長期保存性から社会課題を解決する存在になったが、賞味期限は避けられない。

ある自治体から「賞味期限が切れるから新しい物を買いたいが、古い物を処分して欲しい」との連絡が入ってきた。

ところが、一方で、スマトラ沖地震で津波被害を受けたスリランカからは「古くてもいいからパンの缶詰がほしい」という依頼が入った。

A氏は、廃棄する前に缶詰を引き取り、食べ物に困る海外に送ろうと考え、2009年、「救缶鳥プロジェクト」を立ち上げた。

こうして、企業・自治体が備蓄した缶詰を、新しい缶詰を再購入することを前提に賞味期限を1年残した状態で回収し、その缶詰を、食べ物に困る海外に届ける仕組みが構築された。

これまでに、国内の被災地に約15万食以上、海外の数十ヶ国に約80万食以上を送り届けている。

P社は、被災地で苦しむ被災者の思いに応え続けることで高い評価を得ている。

P社は、これまで世の中になかった、長期保存性と美味しさを兼ね備えたパンの缶詰という災害備蓄食市場(池)を築き、そのクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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