売上げの60%が小口スポット品 -沢根スプリング株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2020年6月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載70回目の今回は、静岡県浜松市で、各種ばね、及び関連製品の製造販売を行なう沢根スプリング株式会社(以下、S社)の池クジラぶりを見ていきたい。

S社は、1966年、沢根孝佳社長(以下、S氏)の父が浜松で創業。

当時、自動車部品メーカーの量産品が主な仕事だった。

日本のばね業界では、需要の6割が自動車業界、2割が家電業界。

S氏が社長に就任した1990年当時、ご多分に漏れず、S社の売上も8割は自動車業界向けで、お客様からの図面や仕様に基づいて製造する下請け受注生産だった。

S氏は、早くから「効率的に毎日同じものを大量に作り続け、価格競争の中で戦い続けることほどつまらないことはない」と考え、自社商品を持ちたいと強く望んでいた。

S氏は、アメリカのボストンにある社員30名程度のばね工場を視察したことをきっかけに、お客様のばね1個からの注文に対して、夕方5時までなら即日発送する業界初の通信販売事業を確立した。

既に事業化されていたビジネスモデルをアレンジし、磨きをかけたのだ。

1987年の開始当初は、ばね業界も業績が好調だったことから、「ばね1個からの通信販売なんて商売にならない」と同業他社などからは冷笑されたが、S氏の信念は揺るがなかった。

今日では、取り扱うばねは5000種類、加工が必要なオーダー品は最短2日目に発送し、全国32000社のお客様に世界最速工場として、「時間」という価値を提供している。

さらに、工業用ばねから抜け出し、医療用の極小ばねという新たな分野へと事業を拡張。

2001年からは、業界に先駆けインターネットを活用したばねのショッピングサイトを運営。

さらに2010年からは、動物実験用脳血管クリップ「マイクロコイル」など医療用のばねやコイルを、インターネットで海外向けに販売している。

また、S社は、通信販売以外でも、1個単位で加工・販売する小口取引を採用している。

1個から注文することが可能で、短納期(即日発送、翌日到着)を基本としているため、8割あった自動車部品メーカーの量産品の仕事の割合を、今日では30%程度にまで縮小させた。

こうした小口取引に対応しつつ、業界の常識を打ち破る「翌日到着」を可能にするスピードは、1個のばねを今日・明日に欲しいというユーザーにとっては大きな魅力である。

現在では、「売上げの60%が小口スポット品」というまでになった。

S社は、価格決定権がなく発注者の意向に大きく左右される業界において、他社がやらない・やれない・やりたくない面倒な市場で生きて行くと決断。

微量のばねを超短納期で届けるという「時間」価値を生み出すことに成功した。

これによって値決めが可能となり、価格競争から抜け出し、世の中から高い評価を得ている。

S社は、ばねの世界最速工場という市場(池)を築き、そのクジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー

公認会計士 税理士西浦 道明(にしうらみちあき)

1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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