西浦道明のメルマガ 2021年10月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載86回目の今回は、静岡県富士宮市で、仏事用飾りろうそく、記念用ろうそく、贈答用ろうそくなど各種ろうそくの製造を行う株式会社東海製蝋(以下、T社)の池クジラぶりを見ていきたい。
T社は1877年、横浜市で日本における洋ローソク製造の草分けとして創業した。
1945年富士宮市西町に工場を設置して以来、富士山麓の水や年間を通じて温度変化のない伏流水で、高品質のろうそくを作り続けている。
現在、製品の大部分を、北海道から沖縄まで約3000軒の仏壇・仏具店などの専門店で販売している。
ろうそくの販売は、もともと“町の雑貨屋さん”へ供給するというルートが一般的で、T社の商圏も、神奈川から愛知県くらいまで、雑貨問屋を介して販売していた。
その後、販売先がスーパーマーケットやドラッグストアなどの量販店中心になると、大量生産・大量消費型の商売を得意とする大手メーカーや海外製品との価格競争が激しくなった。
そんな中、T社は、横浜の仏壇屋との直取引をきっかけに、多品種・小ロット型の受注対応へシフトして行った。
仏壇屋との取引により、消費者のニーズに気がつき、それを一つひとつ形にして商品を創っていくことで、現在はカタログに載っているだけで250種類程のろうそくが生まれた。
さらに特注品も含めると600~700種類ぐらいのろうそくを作っており、仏壇屋に卸すことによって「仏壇屋向けのろうそく」という市場を創り出した。
中でも、ろうそくが倒れることにより火災が発生したというニュースを目にしたことから開発した製品に、「光源氏」というろうそくとその専用燭台「もえ」がある。
ちなみに、この専用燭台は特許を取っている。
ろうそくが倒れるのは、元々ろうそくと燭台が別々の会社で作られていたため、針とろうそくの穴がうまくはまらなかったからだ。
T社は、ろうそくと燭台の一体開発を考案したが、老舗の燭台メーカーの協力は得られなかった。
そこで、地元の中小企業に声をかけ、異業種ネットワークを生かした共同開発に着手した。
まず、ろうそくの製造工程にコンピュータを導入し、穴の構造を均一化した上で、地元に蓄積されていた精密機械の製造技術を利用し、その穴に合致した針を設計した。
こうして、T社はろうそくと燭台の一体開発に成功した。
さらに、開発を進める中で、ロウが残らないように熱伝導率、毛細管現象、表面張力の緻密な計算に基づいて、それまで燭台の素材として主流だった真鍮から、熱伝導率の低い金属を使用してみた。
すると、炎の燃え方がこれまでとは変わり、ろうそくが残り少なくなると、液体化したろうが燭台から吸い上げられ、最後の一滴まで完全燃焼し、嫌な臭いも残らない、プラスアルファの効果も生まれた。
T社の製品は、仏壇・仏具店などの専門店で販売されている。
社員たちが全国各地に出かけて行った際に、自分が関わった製品を目にする機会も多く、自分たちの製品が世の中のお役に立っていると強く感じて、製品づくりに対する責任感をより高めることができている。
T社は、消費者のニーズに応える新しいアイデアを盛り込んだ高付加価値製品を作ることで、お客様から高い評価を得てきた。
T社は灯の歴史に残る製品を開発し続け、仏事用飾りろうそく市場のシェア30%を握る、池のクジラとなっている。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。