1秒にこだわるタオル -ホットマン株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2022年5月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載93回目の今回は、東京都青梅市で、タオル製品の製造・加工・販売を行う、ホットマン株式会社(以下、H社)の池クジラぶりを見ていきたい。

H社は、1868年(明治元年)、着物用の絹織物製造業として創業した。

H社が立地する青梅は古くから織物の里だった。

時代と共に製造品目を変えながら事業を続けてきたが、「自分たちで完成品をつくりたい」という強い思いから、熟考を重ねる中で辿り着いたのがタオルだった。

形がシンプルで、ものづくりの全工程に自分たちが関われることがタオルを選択した理由だった。

さらに、当時は手ぬぐいが主流で、タオルは、一家に一枚あるかないかという時代であり、今後、大きく伸びていく可能性を秘めていた。

早速、H社は、1963年にタオル製造を開始した。

当時、既に有名な産地として、今治(愛媛県)、泉州(大阪府)などがあった。

「本物作りに徹する」という創業以来の理念のもと、後発ではあったが、それまでの服地製造で培った技術を活かし、原材料にもこだわり、他産地とは違う独自の上質タオルづくりを目指した。

当初、卸販売を行っていたが、事業が軌道に乗った1972年、「少しでもお客様に近く」という強い思いから、周囲からの猛反対を押し切り、当時のファッション最先端の地であった六本木に直営1号店「HOTMAN」を開店、「製販一貫」に乗り出した。

H社が製販一貫に乗り出した後、お客様に支持され、現在では、全国の百貨店などに約70ヶ所の直営店を展開している。

そのプロセスでは、それまでお世話になった問屋に迷惑をかけないよう、問屋を通して取引していた先への出店を控えながら直営店を新規開拓していった。

その後、ブランドを構築するために、直営店化を推進していくと同時に、卸販売に関しても、問屋を介さない「直結卸方式」へと切り替えていった。

タオルには品質の高さや価値を訴求しづらいという特徴があった。
そこで、タオルの本質である「吸水性」に着目した。

東京都立産業技術研究センターに自社製品の検査を依頼し、その結果を基に、2013年に品質を定量的に表す「1秒タオル」というネーミングが生まれた。

1cm角に切ったタオルを水に浮かべると、1秒以内に沈み始める高い吸水性のことである。

今治タオルが5秒以内、一般的なタオルが60秒以内に対して吸水性の良さがわかる。

タオル製造には「織る」「染める」「縫う」など多くの工程があり、通常は分業制で行われている。

しかし、H社では製造工程をすべて自社内で行える「一貫生産」の仕組みを構築している。

この仕組みによって工程を跨いだ技術開発を可能にしており、そこから生まれた独自製法によってこの高い吸水性を実現している。

サイズ感や手触りと違い、店頭でタオルの吸水性の良し悪しを判断するのは難しい。

H社は製販一貫だからこそ、店頭で吸水性の実演をしており、「1秒」の説明は「百聞は一見に如かず」だ。

さらに、価格設定の自由度が比較的高く、価格以上に価値ある商品を作ることに強くこだわってきた。

差別化が難しい業界にあって、H社は、価格競争に巻き込まれにくいポジションを築き上げることに成功している。

H社は、低価格商品が多いタオル業界において、競合他社と比べて2倍の原価をかけたものづくりを行い、価格は多少高くても吸水性に
こだわることで、お客様からの高い評価を得てきた。

H社は、吸水性がウリのタオル市場(池)において、クジラになった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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