西浦道明のメルマガ 2022年10月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載98回目の今回は、兵庫県豊岡市で、木製ハンガー、ディスプレイ什器、木製クラフトの製造および販売を行う中田工芸株式会社(以下、N社)の池クジラぶりを見ていきたい。
N社は1946年4月創業した。業務用ハンガーの業界では、いかに安く大量に提供できるかということだけが求められてきた。
N社は、そうした考えを嫌って木製ハンガーに特化することを決めた。
価格帯は1本数万円~数十万円だ。
当初は「そんなハンガーが売れるわけがない」と、社内にも冷ややかな反応があった。
ところが、N社が培ってきた哲学や技術を受けとめてくれるお客様は数多く存在していた。
1985年に、イギリス王室エリザベス女王(エリザベス2世)の来日を機に、N社のハンガーが迎賓館に納品されたことがその好例である。
N社の業務用ハンガーは、現在、多くのブランド・アパレルショップ、国内一流ホテル、旅館、レストランや、山陰・山陽を巡る豪華寝台特急・瑞風の車両にも採用され、さらには、デパートでの販売も増加し、引き出物を中心とするギフトや記念品として人気が上昇している。
それまでファッションの備品に過ぎなかった業務用ハンガーを、主役として進化させることに成功し、N社のブランド力はますます高まっている。
そして業界に先駆け、2000年に通販サイトを開設。
さらに2007年7月に、東京の青山に、様々なアパレル向けのサンプルを約1,000種類取り揃えたショールームを開設した。
そして、それを機に、「こだわりの上質な木製ハンガー」をコンセプトに、自社ブランド「NAKATA HANGER」を立ち上げたところ、長年の思いだった個人向け販売が本格化することになった。
立ち上げた自社ブランドには、ハンガーの後ろに付けるオリジナルロゴも作り、豊岡市で製造する国産品を高付加価値商品として売ることを決めた。
そこには、きちんとした価格で売れば、その分、腕の良いハンガー職人の給与を引き上げて報いることができる。
人手不足の中で、きちんとした給料を払わなければ将来を託せる人材は集まらない。
そうなれば、技術の伝承もままならない。経済の循環を維持し続けるには、良い商品をきちんとした価格で売る高付加価値路線が何よりも大事だというN社の信念が込められている。
2007年に社長に就任した現社長の中田修平氏(以下、N氏)は、「服は身体に合わせて縫製するが、服をかけるハンガーは服を買った時に付いてくるプラスチック製のハンガーや、クリーニングから戻ってきた針金のハンガーが使われているケースも少なくない。そうしたハンガーにつるしたまま洋服ダンスに収納されていたりする。」と話す。
N社は、そんな常識を打ち破り、洋服にフィットするハンガーを提案している。
S・M・Lという一般的なサイズに合わない体格の人や、色や形にこだわりの強い人向けには、オーダーメイドのハンガーを作って世に出している。
N社は、業界ニーズである品質重視、個別のデザインに対応する技術、納期遵守の徹底した生産管理を構築することで、お客様から高い評価を得、大きな信頼を得た。N社は、日本で唯一、洋服にフィットする高級木製ハンガー市場(池)のクジラとなっている。
アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。