西浦道明のメルマガ 2022年12月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、
高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載100回目の今回は、福井県鯖江市で、医療精密部品、楽器部品、眼鏡枠部品等の金属加工を行うヨシダ工業株式会社(以下、Y社)の池クジラぶりを見ていきたい。
Y社の創業は、1948年4月に、現社長の吉田俊博氏(以下、Y氏)の父が、吉田製作所として蝶番(ちょうつがい)製造を開始した。
創業当時は、鯖江市がメガネフレーム国内シェア90%を誇っていたこともあり、メガネ部品を中心に事業展開してきた。
近年、「とにかく一度、やってみるか」というY社のモットーの下、特に、鍛造技術、異形線プレス加工技術、生体親和性に優れたチタン材料の加工技術、異種金属のレーザー接合技術などを自社のコア技術に育てることに成功した。
現在、その技術をベースに、医療分野や楽器分野でも存在感を発揮している。
特に、1983年に生産を開始した木管楽器分野では、フルート・オーボエ・ピッコロ・クラリネット・サックス向け部品を生産している。
従来は、繊細な形状によって音質と外観を保持するため、熟練者によるハンドメイドが一般的だった。
そこでY社は、メガネ部品の加工で培った鍛造技術を提案し、大幅に生産性を向上させた。
さらに、鍛造加工によって金属そのものが硬くなって楽器の音質も良くなり、奏者から「音がよくなった」と高い評価を得るに至った。
プロ向け木管楽器部品では日本最大のシェア、木管楽器の鍛造部品に限定すれば、ほぼシェア100%である。
メガネ部品をつくっていたY社が楽器部品を生産することになったきっかけは、あるお客様から「フルートの部品を作ってほしい」という話が持ち込まれたことにあった。
当時、眼鏡産業は絶好調で、わざわざ他に手を出す必要はなかったが、Y氏は、お客様に対して「お客様が成長・発展していくために、我々は何をすべきか」が原点だと考え、生産に踏み切った。
メガネ部品製造で培った異形線プレス加工技術により、プレスすると金属が高密度・高強度になった。
そうなると、当然、響きが良くなり、音にシビアな主にプロ向け管楽器の世界で、同社の技術は大いに評判となったのだ。
またY社は、メガネ部品製造、楽器部品製造に加え、医療機器部品製造も行えるように、自社で多様な工作機械や加工設備を有している。
それらを活用して、試作や小ロットから大量ロットの生産まで幅広く対応できる上に、自社内には、金型の設計・製造からプレスまでの一貫生産体制が敷かれている。
さらに、Y社は部品製造に止まらず、2019年、楽器の金属部品のバリ取りから研磨作業まで行えるロボットも開発した。
それまでの研磨作業は、鯖江市内の眼鏡関係の専門業者に発注していたが、担い手不足により倒産してしまったからだ。
2016年、福井大学と産学官連携し、ロボットの完成に漕ぎ着けた。
これにより、生産効率は5割増したという。
Y社は、他社が地場産業の眼鏡産業に没入する中、いち早く木管楽器部品の可能性に着目し、既存技術を利活用しつつ、時代のニーズに沿った高付加価値部品を提供することで、お客様から高い評価・信頼を得た。
世界における、日本のフルート製造のシェアが圧倒的に高い中、Y社の存在は不可欠なものとなっている。
Y社は、プロが認める木管楽器部品メーカー(池)のクジラとなった。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。