ここでしか買えないフルーツ生ゼリー -杉山フルーツ店

経営

西浦道明のメルマガ 2023年2月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載102回目の今回は、静岡県富士市で、果物販売を行う杉山フルーツ店(以下、S店)の池クジラぶりを見ていきたい。

S店の創業は、1950年に一般的な果物店として、杉山久男氏と妻の喜久枝氏により創業されたのが始まりである。

S店が大きく変わったのは、1982年に久男氏の娘の郁美さんと結婚をして、家業を継ぐことになった現代表の杉山清氏(以下、S氏)が婿入りしてからだ。

S氏がS店に入った当時は、お店が立地している富士市にある吉原商店街は、八百半デパートが大型店として出店していて、商店街もにぎわい、買い回り品を中心に売れ行きも好調だった。

しかし、1994年にその状況が一変する。

郊外に駐車場を備えた量販店が次々と出店したことに加え、商店街の集客を支えていた大型スーパーやデパートが撤退してしまったのだ。

突然、核になるデパートと大手スーパーが商店街から撤退し、地域の集客装置がなくなってしまった。

しかも、S店はちょうどスーパーの前にあったため、より大きな影響を受けた。

S氏は、勿論、不安はあったが、このピンチをチャンスと捉え、「ギフト専門の高級フルーツ店」へと大きな方針転換を決断する。

S氏がギフト専門の高級フルーツ店へと方針転換したのには理由がある。

それは、S氏が地域住民から「スーパーでギフトを頼んだら『うちはできません』と断られた」という困りごとの声を多数耳にしたからだ。

そこで、S氏は、そういうギフト商材がこの町になかったことに気づき、ギフトを重要視していった。

ギフト専門の高級店へとシフトチェンジしたS店は、さまざまなサービスでお客様の心をつかんでいく。

まず力を入れたのが「ラッピング」。

S氏が取得していたギフト・ラッピング・コーディネーターの資格を生かし、当時のフルーツ店では珍しい飾り付けを施し、好評を博した。

さらに、お店で売っているのと同じ「高品質のフルーツを使用したウェルカムドリンク」の提供も行った。

周囲から心配されたというが、それでもS氏は「一見さんがうちへ来て飲んだジュースがまずければ、これはフルーツもまずいんじゃないかと評価さてしまう。やはりイントロ部分は一番大事で、そこから得られる効果は大きい。」と話す。

ギフト専門の高級フルーツ店に転換したS店だが、次に目指したのが「自社開発商品」だった。

そして2005年に完成したのが、新鮮なフルーツを美しく彩った生ゼリーだ。

開発のきっかけは、S氏が「カットフルーツは百貨店でもスーパーでも置いてある。これをカラフルにして、ゼリーを注いだらもっと面白いんじゃないか」と思い立ったことだった。

通常、フルーツゼリーを作る際は、フルーツが持つ酸味がゼリーを溶けやすくしてしまい、果物を生のまま、ゼリーで固めるのが難しいという理由から、缶詰や砂糖漬けした加工用のフルーツを使うのが業界のセオリーだが、S店はギフト用と同じ高品質のフルーツを使っている。

さらに、ゼリーの原料となる寒天も、富士山麓の地下水を使って、加熱・液化してから容器に注ぎ、それを冷やして固めてゼリーにしている。

今では1日に700~800個を作っているが、機械を使って量産すると、生のフルーツが煮えてしまうリスクもあり、一つひとつ手作りしている。

これだけ、高品質な素材と手間暇かけて作る生ゼリーは、販売以来、たちまち評判となり、賑わいを失っていた商店街で開店前から長蛇の列ができるようになった。

当然、この噂を聞き付けた東京の大手百貨店などから出店要請が数多くあったが、手作りにこだわるS氏は、大型商業施設で販売すれば、この作り方では採算が合わないと固辞をしている。

また、百貨店の催事に出ることもあるが、そこでの販売は個数限定としているため、結果として非常に希少な商品となり、さらに人気に拍車がかかり、S店を目的にした「わざわざ客」が増えている。

S氏は「ここに来ないと買えないというプレミアム感がなくなってしまえば、必ず飽きが来るだろうという思いがありました。だからこそ、今も買い求めてくれるお客さん、リピーターがいるのだと考えています。」と自信の経営方針を話した。

S店は、素材・製法に徹底的にこだわった、ここでしか買えないフルーツ生ゼリーを提供することで、お客様から高い評価・信頼を得た。

S店は、地域ナンバーワンの「ギフト専門の高級フルーツ店」のクジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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