西浦道明のメルマガ 2024年3月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載106回目の今回は、岡山県岡山市で、醸造機械・食品機械・バイオ関連機器の開発、設計、製造、据付、販売およびプラントエンジニアリングを行う株式会社フジワラテクノアート(以下、F社)の池クジラぶりを見ていきたい。
F社は、1933年創業し、岡山市富田町で醸造機械の製造を開始した。
現在、しょうゆ、みそ、日本酒、焼酎、甘酒などを作る醸造機械・大型醸造プラントメーカーである。
同社は、麹を自動で製造する製麹(せいぎく)装置で国内シェア80%を占め、これまでに海外27ヶ国に輸出する業界のトップ企業になっている。
F社が、醸造機械・大型醸造プラントの分野で、業界トップ企業となれた理由の1つは、醸造家の感性・スキルを機械化・自動化する技術開発力だ。
麹づくりには、米や大豆などの固体原料に麹菌という微生物を繁殖させる固体培養技術が使われているが、固体原料に麹菌を均一に繁殖させ麹菌の活動を正確にコントロールするのは大変難しく、大型化や自動制御は困難とされてきた。
それを可能としたのが同社である。
さらに、機械化・自動化が特に困難といわれていた吟醸酒など、高級酒の麹づくりを高品質かつ安定的に生産できる装置の開発にも成功した。
吟醸酒、大吟醸酒、純米吟醸酒は、杜氏や蔵人の経験と技術力がより求められるが、杜氏や蔵人の減少や高齢化、後継者不足といった問題を抱えていた。
さらに、高品質の吟醸麹を安定的に製造することは、高度な技術を有する熟練した杜氏でさえ困難を窮め、酒造家、醸造場の存亡に関わる課題となっていた。
F社が、吟醸麹用の自動製麹(セイギク)装置を開発する以前に、同様の装置がなかったわけではない。
普通の清酒のための麹は問題なく製造できたが、吟醸酒や大吟醸酒の製造には使用できなかった。
それは、製麹を行っているときに麹表面からの水分蒸発が不十分で、吟醸麹の命である「突き破精(ツキハゼ)麹」(表面には麹菌の菌糸が広がっておらず、米粒の中心部に向かって入り込んでいる麹)にはならないからだった。
ところが、F社は、空気を僅かしか通さず、水蒸気を適度に通すという非常に面白い特性をもった機能性布との出会いをきっかけに、壁を乗り越えた。
機能性布は、スキーウエアやゴルフのレインウエアなどに使用され、体が蒸れない素材としてよく知られている。
この布の特性を活かすことで、無通風状態における吟醸麹専用の製麹装置を開発することができた。
良質で再現性のある吟醸麹は、機械では出来ないということが、業界では常識とされてきた。
その先入観を取りのぞくことが最も困難だったが、この装置で製造した麹を、優れた杜氏に評価してもらうことで徐々に信頼を得、酒造業界において高い評価を得られるにいたった。
またF社の開発した装置は、伝統的麹づくりの蓋麹法(フタコウジホウ)と同じ「突き破精麹」ができる基本原理(特許取得)を用いているため高品質な麹づくりが可能となった。
また生産性の向上、全自動化による無人化、そして安定して生産できるという再現性も同時に兼ね備えた装置でもあった。
F社が業界トップ企業となれた、もう1つの理由は、F社の装置がアフターフォローを徹底したオーダーメイドになっていることだ。
醸造食品の製造は、麹や酵母による培養・発酵工程を経るが、その設備の仕様や工程は、製品、企業ごとに異なっている。
さらに、醸造機械の使用期間は約30年にもなるため、納入後のお客様の状況も想定しながら、長期的な視点に立ち、お客様のニーズを多角的に捉えていく必要がある。
お客様の要望や情報を丁寧に収集しながら、醸造家の設備への思いもしっかりとリサーチして、F社は、お客様の醸造技術力と融合した機械装置づくりを目指してきた結果、高い信頼を得てこられた。
そのF社のものづくりを可能にしているのは、自由度が高く柔軟性のある工場だ。
自社工場内で、製缶溶接・機械加工・仕上組立を完結できるほか、材料、加工、部品、組立、据付など、全国500社以上の協力業者と連携することで、企画から稼働まで一貫したバックアップ体制を構築し、お客様の多種多様なニーズにきめ細かく応えている。
F社は、これまでの職人の勘と経験に基づく麹づくりの機械化を進め、高品質かつ安定的な麹づくりを行うことで、お客様から高い評価・信頼を得た。
F社は、職人も認める自動製麹装置(池)のクジラとなった。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。