西浦道明のメルマガ 2024年1月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載113回目の今回は、福岡県北九州市で、エンジニアリング・プラスチックの精密切削加工等による工業用機能部品の製造を行う株式会社陽和(以下、Y社)の池クジラぶりを見ていきたい。
Y社は1954年3月創業した。以来、社名に込めた「明るい人の和を広げ、会社を発展させていきたい」という思いから数々のオンリーワン技術を生み出し、2011年、第2回『北九州オンリーワン企業』として認定されるなど、高い評価を得てきた。
現在、フッ素樹脂に特化したプラスチック精密加工を行っているが、1965年、化学プラント用にフッ素樹脂で包んだ高機能パッキンが出現したのを機に、フッ素樹脂の成形加工に乗り出したことがきっかけである。
フッ素樹脂は、耐熱性に優れ、相手素材に接着しにくいという非粘着特性から、フライパンの表面処理加工などに使用されている。
反面、接着性が非常に悪いため、フッ素部品同士を接着させることは困難である。
また弾性体であり、金属と比べ熱膨張率が大きいため、工業部品としては切削後の寸法精度が得にくいという特徴がある。
このように優れた特性を有しながらも加工しにくいという問題点があるため、取り扱いが困難とされてきた。
Y社は、IT産業の急速な発展に伴い、半導体製造装置分野への進出を目指した。
半導体業界の求めに応じフッ素樹脂の加工技術を深化させ、半導体製造装置向けに部品供給を始めたところ、その生産量は急激に増大した。
これにより、多品種少量生産体制を築き、半導体業界のニーズに対応できる品質管理と精密加工のノウハウを蓄積し、フッ素樹脂の高機能部品化に特化していった。
この結果、オンリーワン技術であるフッ素樹脂の「成形・溶着・切削加工技術」を完成させた。
この複合する3つの技術と、お客様の要求に応えるワンストップソリューション力が、単体の素材メーカーや加工メーカーでは成し得ない、Y社の大きな強みとなった。
まず、「成形」では、規格品のフッ素樹脂素材をほぼ使用せず、自社成形によるモールド素材やインジェクション品を用いている。
さらに、Y社の誇る豊富な素材金型のラインナップとクリーンルームでの成形作業により、サイズロスの少ない高品質な素材成形を実現できている。
次に、「溶着」においても、一般的には加工技術者のスキルに依存しているため、技術者の習練度などにより品質が安定しないという問題を抱えていた。
そこで人に頼らず、オリジナルな設備を活用して数値制御を行うことで、品質の安定化と量産を他社に先駆けて実現させた。
溶着技術は、国産初の「体内埋め込み型補助人工心臓」の基幹部品にも活用され、高い評価を得ている。
そして、「切削」においても、「柔らかいフッ素樹脂は、寸法精度よく切削加工することができない」と言われている中、ミクロンオーダーの精密加工技術を確立させ、精度が要求される様々な用途に採用されている。
半導体、医薬品や食品の製造装置に組み込まれるコントロールバルブなどにも活用され、高い品質を維持しながら小ロットの特殊品から数万個の量産品まで対応し、顧客の期待に応えているのは、まさに究極の技と言える。
Y社は、素材の成形・溶着・切削という3種の複合技術を強みとして、これらすべてを自社で行って高品質・高機能・独創的な製品をつくり出すことで、お客様の求めに対応し、高い評価・信頼を得ている。
Y社は、フッ素樹脂に特化したプラスチックの精密加工市場(池)のクジラとなった。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。