西浦道明のメルマガ 2024年2月
2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。
連載114回目の今回は、大阪府大阪市東淀川区で、共押出し多層フィルムの製造・販売を行うクリロン化成株式会社(以下、K社)の池クジラぶりを見ていきたい。
K社は、1960年10月に、現社長の祖父が設立し、塩化ビニル押出機2台からスタートした。
その後、1997年には第二創業として、5層水冷共押出し専業メーカーに脱皮し、お客様から高い評価を得続けている。
ちなみに、「共押出し製法」とは、複数の樹脂を複数の押出機から別々に押出し、「特殊な構造の金型ダイ」の中で、積層して複合フィルムを作る製法のことである。
なお、K社の言う専業メーカーとは、「5層水冷共押出しではこれしかできません。」とやれることを限定するのではなく、「この技術でこんなことも出来るはず。この技術ならではの答えがあるはず。今の技術を超える技術があるはず。」と、5層水冷共押出しに特化する中で、幅広い視野から、顧客ニーズの実現に向けて問い続けるメーカーのことを言う。
K社が創業した当時の日本は、高度経済成長期で、モノを作れば何でも売れる時代だった。
しかし、オイルショックが起こり、高度経済成長期が終わりを迎えると、K社の状況も一変し、様々なモノを作っているのに、思うように売れず収益が悪化していった。
そこで、K社は、共押出し事業への転換を決めた。
1997年当時、共押出しは新しい加工技術で多くの企業が関心を持っていた。
実際、大企業の事業部門や独立系の中小企業など20社近くが進出を検討していた。
しかし、共押出しは、製造する上で、樹脂ごとの温度調整が難しく、また原料の配合も必要になるなど様々な課題を抱えていた。
そんな中で、K社は、創業当時から行っていた塩化ビニル加工で原料に可塑剤や熱安定剤を配合する必要があり温度調整も複雑だったため、共押出しを推進する上での課題解決の術を既に持ち合わせていた。
さらに、共押出し製法は、原料の選定や厚み比の設定など、フィルム設計の自由度が極めて高い反面、原料レベルでの知識や高い製造技術が必要とされるため、大企業が得意とする大量生産には向かなかった。
競合他社がいくつか存在する中で、K社が勝ち残ったのは、絶えず、新製品を開発し続けてきたことが理由の一つだ。
また、機械メーカーと組むと、K社が努力して得た実証データを渡さなければならず、結果的に、競合他社にコア技術を渡すことになる。
だったら、自社で独自製造マシンを開発した方がいいと判断した。
このように、設備を含めた製造技術の開発を自前で行ってきたことが、勝ち残ってこれたもう一つの理由である。
現取締役会長の栗原清一氏は、「当社は、大手企業と違い共押出し専業メーカーなので、共押出ししかないという制約があるからこそ、自由に且つ深く考えることになる。どんな問題が起きても、共押出しの領域のなかで、どうにかできないかと工夫する。当社は、製造設備の改良が当たり前で、実験が自由にでき、その経験も
蓄積される。当社の個性と、お客様の課題解決が重なり合う部分、それを提供することに会社の存在意義がある」という。
当社が生み出した複合フィルムは、内面の衛生性が高く、柔軟性・透明感・光沢感に優れており、有機溶剤を不使用のため安心できる。
そのため、内容物を美しく見せることができ、中身の付加価値を高めている。
圧倒的に多様なサイズラインナップ、小ロット・短納期の対応など、食品や医療分野でのニーズが年々増しているフラットフィルム、ユーザーのニーズに合わせて設計する開発品等々、新製品を毎年のように開発・上市している。
K社は、お客様の声に耳を傾け、自社開発した製造設備を使って生み出される高機能フィルムにより、お客様の課題を解決し続けてきた。
K社は、5層共押出しフィルム業界(池)のクジラとなった。
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筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき) - 1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。