東京メトロの青山1丁目駅近くに「アイエスエフネット」という社名の人にやさしいIT企業がある。
当社の創業は今から11年前の2000年であるが、現在の社員数は約2,000人。その拠点も全国ばかりか今や海外まで拡大している。
創業者であり、現社長の渡辺氏は、外資系IT企業のエンジニアであったが、スピンアウトし、「雇用の創造と人間尊重の経営」を大義に掲げ、仲間数名とスタートしている。
当社が近年注目されるゆえんは、僅か10年で社員数が2,000名を超えるまでに急成長している企業ということもあるが、より重要なことは、当社がこの間、掲げた大義を軸に、愚直一途に経営道を邁進しているからである。特筆されるのは、当社がこの間、創造確保した2,000名の社員のおよそ3割から4割は現・元を問わず、障がい者やニート・フリーターあるいはシングルマザーといった社会的弱者と呼ばれる人々である。
当社に、なぜいわゆる元・現を問わず、社会的弱者と呼ばれる社員がこれほど多く集まってきたのであろうか…。その理由は、当社の大義、とりわけその採用方針にある。つまり、創業まもない中小企業ということもあったが、“まじめに働きたい人、この指とまれ!”方式で、来る人拒まずの姿勢で社員を採用してきたからである。
渡辺社長は、求職者が持参した履歴書を当初ほとんど見なかったという。この結果、過去の経歴が邪魔し、働きたいけれど職場がなかった真面目な人々が、当社に採用されたのである。
社員の中に、元障がい者や、現在も障がいがある社員がいたということは、当社へ入社した後、頻繁に開催している社員とのコミュニケーションの場で、渡辺社長は知ったという。しかもこうした社員の中には、会社の主要戦力になっている人が、多々いたのである。
ならばと、2006年には堂々と5大雇用宣言をしたのである。
5大採用とは、
(1)ニート・フリーター (2)障がい者 (3)ワーキングプア (4)シニア (5)引きこもり である。
こうした活動はさらに進化し、今やそれに加え、難民やホームレス、DV被害者等10大雇用宣言をしている。当社のホームページを見ると、2020年計画というものがある。その1つに2020年には障がい者等社会的弱者を1,000人採用し、25万円の給料を払うと明文化している。
当社のこうした経営姿勢に対するエピソードは多々あるが、その1つを紹介する。それはある社員の奥様が家族懇談会の中で言った話である。
“もし私の主人が当社を辞めるというなら、私は主人と離婚します。こんなにも主人や家族のことを大事にしてくれる会社を裏切るなんて許せませんから…”と。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。