北海道の十勝平野の母都市「帯広市」の中心街の一角に「平和園」という店名の外食産業がある。
驚くべきは1970年の設立以降、今日までの42年間、撤退店は1店舗もないばかりか、黒字経営(全て売上高経常利益率が3%以上)を持続している超優良店なのである。
主事業は焼肉レストランの経営で、現在、店舗数は、本店のある帯広市を中心に十勝平野に6店舗、札幌市に3店舗の計9店舗である。年間来店客数は40万人以上という。
当社の設立は1970年(昭和45年)、現社長の新田氏が、実父が経営していたホルモン焼き屋を、いったん整理し、再スタートしている。
焼肉屋の設立のきっかけは、当時、焼肉屋はそこそこ繁盛していたが、多くのお店は理不尽な配膳や接客サービスで、こうした商売を見るにつけ、リーズナブルな価格と親切丁寧な接客サービスを提供すれば、必ず焼肉屋は繁盛すると考えたことと、新田社長自身、貧困な生活の中で育った体験から、食を通じて人々に喜ばれることをしたかったからという。
設立当初から、このことを肝に銘じ、努力を重ねた結果、現在、売上高は約11億円、社員数は160名(内パート100名)と、今や北海道を代表する焼肉屋として高い評価を得るまでに成長発展している。
先日も帯広を訪れた際、本店で食事をする機会があったが、焼肉の味と値段、さらにはその接客サービスには魅了された。
その訳を新田社長にお聞きすると、牛肉は全て地元の十勝牛といい、しかも、その加工は全て肉職人さんの手切りという。15年以上のキャリアのある肉職人さんが、1枚1枚丁寧に切り落とし、余分な脂身を取り除きながら切り分けているという。だからこそ、肉は柔らかく、しかもボリュームがあるのである。
また、味付けは、お客様の注文ごとに肉の状態に合わせて、12種類の調味料を調合した「秘伝のたれ」をもみ込む「一丁付け」という手法を取っている。
加えて言えば、これだけ品質にこだわっているにもかかわらず、値段はというと、想像を絶する安さである。例えば、地元十勝牛の「サガリ(ハラミ)」が550円、ジンギスカン定食に至っては何と500円、しかもこの値段は既に20年以上という。余談であるが、焼肉に食べなれた筆者の研究仲間は「良心的過ぎる」といっている。
こうした頑張る地方の外食産業を見ると、問題は外ではなく内にあると痛感させられる。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。