サンヨネ~頑張る三河の食品スーパー

経営

愛知県の豊橋市を中心とした三河地区に「サンヨネ」という店名のユニークな食品スーパーがある。

創業は今から120年前の、明治25年、初代「三浦米三郎」が本社のある豊橋市で家業としての乾物屋としてスタートしている。株式会社サンヨネは、初代の名前が由来である。

創業以来、家訓でもある「景気や流行を追わない」「お店づくりはファンづくり」をモットーに、正しい経営を続けてきた。この結果、現在では、三河地区に7店舗を有し、従業員数(当社では全ての従業員をパートナーと呼ぶ)は、現在正規が350名、非正規が300名の計650名、売上高は約200億円弱、地元では知る人ぞ知る優良企業にまで成長発展している。

豊橋に地元密着の良いお店があると、研究仲間から聞き、先日、当社の「蒲郡店」を訪問調査させていただく機会があったが、正直、当店の繁盛ぶりには驚かされた。

まず驚かされたのは駐車場の車の多さであった。当日、筆者らが訪問したのは、平日の午前11時前であったにもかかわらず、既に当社の約500台の駐車場は、ほぼ満杯状態であった。対応してくれた三浦常務に、時間別買い物客数を尋ねたところ、一般の食品スーパーとは全く違う内容であった。

ちなみに、当店は朝10時から開店しているが、最も客数の多い時間帯は、午前11時から12時の間、次いで多いのは午後16時から17時の間、その次は午前10時から11時の間という。1日の顧客数は、平日が平均し3,800人、土曜日・日曜日は平均し4,200人という。

その訳を知りたく、お店の中に入ると、これまた驚かされた。それは午前11時前後であるにもかかわらず、店内は顧客でごった返していたばかりか、見た目にもすぐわかる新鮮な野菜や果物が所狭しと並べられ、しかもその値段は想像を絶する安さなのである。

安さの秘訣を多々語ってくれたが、とりわけ大きな要因は、当社では新聞折り込みチラシ等広告宣伝は一切しない経営や、業績よりも顧客の値ごろ感を重視しているためである。

三浦常務はこのことを「顧客にこれまで育てられ、既に自己資本比率は無借金の状態であり、利益は数パーセントあれば十分」と言う。

また豊富で新鮮な食品の秘訣は、「生産者とともに成長・発展する」「決して値切りをしないという」生産者への熱き思いが生産者の心をシカととらえているからである。とは言え、こうしたサンヨネの経営スタイルは、昔からではない。それどころか、10数年前までは、横柄な接客態度、高い従業員の離職率、さらには、自社の業績を高めるための生産者への大幅な値引き等、現在とは真逆の経営だったという。

変わるきっかけは、本稿でもかつて紹介した「伊那食品工業」(伊那市)や「六花亭製菓」(帯広市)の存在を知り、訪問し、真摯に学び続けたからである。

こうした元気な地方のスーパーの経営を見せつけられると、中小企業経営の問題の多くは、「変われないのではなく、変わらない…」結果現象と言っても過言ではない。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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