今後20年間で、わが国人口は約1200万人減少する。
一方、65歳以上の高齢者は逆に700万人も増加する。高齢者の多くは本人が好むと好まざるとにかかわらず、程度の差こそあれ、障がいを持っての生活となる。
こうした市場の未来を踏まえれば、我が国中小企業は今後一段と高齢者ビジネスに関心を強めるべきといえる。
加えて言えば、高齢者の抱える問題の多くは、人それぞれ、つまり一品一様であり、量産や量販が得意な大企業ではなく、小回りこそが得意な中小企業こそが担うべき市場といえる。
こうした時代の到来を以前から予測し、創業以来、一貫して高齢者や障害者のための福祉機械の研究開発に尽力している会社がある。その1社が静岡県磐田市に本社を持つ「株式会社アマノ」という社名の中小企業である。
主事業は福祉機械や医療機械の研究開発から製造販売で、現在の主製品は「入浴介護装置」や「内視鏡カメラの洗浄機」等である。
当社の設立は1966年(昭和41年)、現社長天野氏の実父がスタートしている。きっかけは創業者の父親が重い病で一人では入浴できない身体となってしまったことにある。
当時の入浴介護装置は外国製が全てで、日本人の入浴習慣には合うものではなかった。つまり、浴槽は浅くシャワーのみで、湯船でゆっくり温まるという装置ではなかったのである。
お風呂好きの父親を何とかしてあげたいと創業者は本業(自転車修理)の傍ら、約3年間を費やし、研究開発に明け暮れたのである。
笑い話であるが、最初の浴槽はなんとドラム缶を半分に切ったものだったという。試行錯誤を繰り返し、3年後とうとう国産初の「入浴介護装置」の開発に成功するのである。
とはいえ、当初のそれは現在のようなストレッチャー付きでも、リフト付きでもなく、細長いステンレスでできた長方形の湯船の上に取り付けられた鉄格子のようなベッドに障がい者を横たえ、回転式ハンドルで湯船に降ろしていくといった、半自動の装置であった。
しかし、それでも父親は大いに喜んでくれたという。天野氏は、噂を聞きつけた多くの障がい者のために、装置の改善改良を重ね、現在の全自動入浴介護装置の開発にこぎつけている。
そればかりか、こうした熱心な福祉機器の研究開発に対する姿勢が、この分野では世界的な企業にも認められ、そのOEM生産も請われ行っている。
業績もほぼ順調に推移しており、最新の業績は、売上高が約51億円、社員数も140名と業界の中堅企業にまで成長発展している。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。