東京の神田和泉町にユニークな経営で知られる中小企業がある。社名は「昭和測器」、工場は八王子である。主事業は振動計測装置、振動監視装置の製造販売である。
従業員数は26名という小さな企業であるが、携帯型振動計の分野ではわが国の60%シェアーを有するトップ企業である。
下請を嫌い、創業以来一貫して研究開発型企業の道を歩んでいる。事実、従業員数26名の内訳は、技術者が8名、営業技術者が8名と、全従業員の約60%が技術者である。
その業績もすこぶる高く、多くの企業が赤字経営に苦しむ中、当社の近年の売上高経常利益率は概ね10%~15%を持続している。
そればかりか、ここ数年間で見ても、社員は夏・冬それぞれ2ヶ月分の賞与の他、決算賞与が約1ヶ月分、なんと計5ヶ月分ある。
こうした好業績の持続の要因は、次から次に社会評価の高い新商品開発を世に提案してきたこと等もあるが、より重要な要因は、当社が掲げた経営理念と、それに基づく経営戦略、さらには創業者である鵜飼社長の経営姿勢が、関係者の支持を得ているからである。
当社の経営理念は「社員とその家族、そして仕入先とお客様を大切にする会社」とある。ブレまくっている会社が掲げる「株主第1主義」・「顧客第1主義」ではなく、当社は「社員第1主義」なのである。
このため、創業以来43年間、社員とその家族や、仕入先の社員とその家族の命と生活を守る経営を続けている。
つまり、この間、景気や流行を一切追わず、じっくりぶれない価値ある新商品開発に取り組んできたのである。
また経営理念の最大の体現者である鵜飼社長の、この間の言動一致の経営姿勢も見事である。
例えば、会社は「株主のもの、経営者のものではなく社員皆の者」と宣言し、全員を入社1 年目から株主にするとともに、つつみ隠し事の一切ない、超ガラス張り経営を貫いている。
そればかりか、当社では全員平等で、社長もタイムカードがあるばかりか、社長の交際費は実質ゼロ、加えてトイレの掃除当番までもある。
筆者はこれまで7.000社近い中小企業を訪問調査しているが社長さんもトイレ掃除がある会社はそうざらにはない。
ともあれ、こうした社長のリーダーシップに社員は感動し、顧客を感動せせる価値ある商品を創ろうと努力してきたのである。
こうした元気な中小企業の存在を見せつけられると、中小企業問題の大半は「外ではなく内・・・」、とりわけ経営者の心と背中にある、と言わざるを得ない。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。