過去およそ20年、住宅業界の業況は厳しい。それもそのはず、およそ20年前、業界の景気のバロメーターである年間新設住宅着工件数は、約170万戸を数えたが、その後年々減少し、近年のそれは約90万戸前後とピーク比ではなんと半減である。
では、今後再び右肩上がりに着工件数が増加するかというと、それは極めて難しいと、言わざるを得ない。というのは、すでに供給されている住宅数は、世帯数を600万戸も上回ってしまっているばかりか、世帯人員も今や2.5人程度と、限りなく限界に近づいてきているからである。加えて言えば、すでに我が国社会は人口減少社会に突入していることもある。
つまり、近年の住宅業界の問題の所在は、景気がもたらす一時的・一過性的問題ではなく、時代変化がもたらす構造的問題なのである。
こうした右肩下がりの時代にあって、住宅業界が生存していくためには、半減化してしまったとはいえ、未だ、約90万戸(10年後は60万戸)もある巨大な市場を、いかに取り込むか、あるいは、住宅周辺の価値を取り込み、いかに1戸当たりの付加価値を高めるか、さらには、市場を特化・絞り込み縮小均衡を図るか、といったことしかないと思われる。
こうした厳しい時代環境の中ではあるが、全国各地には、これが同じ住宅業界なのかと思わせられる快進撃の住宅メーカーが少なからずある。その1社が「都田建設」という社名の住宅メーカーである。
会社は静岡県浜松市の北部の都田地区、主事業は木造注文住宅の設計・施工である。社員数は43名、年間建設住宅は約100棟である。驚くべきはその業績ですでに12年連続増収増益、しかも営業マンは一人もおらず、しかもモデルハウスも無いのにである。 ではなぜ、他の多くの住宅メーカーが受注不足に喘いでいる中、当社は営業を全くせず快進撃を続けているのであろうか・・・。
結論を先に言えば、住宅のデザイン力や設計力もさることながら、最大の売りは蓬莱社長をはじめとした全スタッフの魅力的な人間力にあるといっても過言ではない。つまり都田建設の最大の商品は「社長と社員」といえる。もっとはっきり言えば、住宅づくりを通じ、社長や社員とお付き合いを重ねると、何か幸せな人生を送れる…と多くの顧客が感じているからである。
先日も、アタックスグループ(調査研究事業室)と法政大学大学院(静岡 SC)の共催で、定期的に実施している「優良企業研究視察会」で、全国の中小企業経営者等、約30名と共に当社を訪問してきた。
全社員の目つき顔つきはもとより、そのおもてなしの言動、ぬくもりの感じる社風、さらには住宅建設の着工から、引き渡し式・その後のフォローに関する紹介ビデオ等を見せていただき、なぜ当社が何ら営業しなくても、常に受注残が150棟もあるという意味がよくわかった。
アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。
筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。