協和~ユニバーサルランドセルを創る

経営

都内神田に本社を持ち、千葉県野田市に生産工場がある「協和」という社名の中小企業がある。主製品は学童用のランドセルやキャリアバック等のかばん類である。創業は1951年、現経営者である若松種夫氏が戦地から復員し、戦前、かばん製造職人であったこともあり、一人でスタートしている。

若松社長は群馬県生まれで尋常高等小学校(現在の中学校)を卒業後、家計を支えるため都内のカバンメーカーに就職した。その後、太平洋戦争が激しくなり兵役に召集され、最後のニューギニア諸島の激戦では4,000人いた部隊で日本に帰ることができたのは、僅か40人だったという激戦の中を生き抜いてきた人である。

こうした過去を背負い生きているので、世のため人のためになる経営、背伸びをしない経営に愚直一途に取り組んできた。

この結果、多くの同業者が年々縮小する市場と、アジア地域からの低価格バックが流入する等、厳しい業界ではあるが、国内ではナンバー2の企業にまで成長発展し、しかも、近年の業績は右肩上がりである。

事実、当社の業績等を見ると、5年前の年商が40億円だったものが現在では53億、また社員数も5年前の177人が現在では358名と増加している。

こうした当社の成長発展の要因は、多々あるが、とりわけ明記すべきと思われるのが、若松社長の人、とりわけ社会的弱者の幸せに思いを馳せたぶれない経営である。

より具体的に言えば、その1つは、高齢者や障がい者の積極的な雇用であり、もう1つは、ユニバーサルランドセルの積極的な受注生産などである。

高齢者や障がい者の雇用で言えば、障がい者雇用率は3.5%と、業界平均の1.7%はもとより、法定雇用率の2.0%も大きく上回る。60歳以上の社員は現在28名在籍し、70歳代の社員も多数いる。もっとはっきり言えば、当社は実質的には、社員が辞めたい時が定年なのである。

もう1つのユニバーサルランドセルの注文生産も立派な社会貢献活動である。何らかの障がいがあり、通常のランドセルでは、背負うことのできない児童のために、どんな面倒な注文でも積極的に受注生産しているのである。加えて言えば、製作期間は、通常のランドセルと比較し10倍程度かかるというが、当社は、それを、ほぼ同一価格で販売しているのである。

紙面が残り少なくなってしまったので、このかばんを注文したあるお母さんから当社に寄せられた数々の「感謝の手紙」の中から1通を紹介して今回はペンを置く。

「とても良いランドセルを作って頂きありがとうございました。力の弱い娘でも、簡単にランドセルを開け閉めできて、とても喜んでいます。体が不自由で車椅子に乗っていても、みんなと同じように、ランドセルを背負って学校に行きたいという娘の願いをかなえてあげることができて、本当に良かったです。大事に大事に使いたいと思います。本当にありがとうございました。」

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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