障がい者雇用で頑張る中小企業

経営

「改正障がい者雇用促進法」がこの4月に施行された。今回の大きな改正点は、障がい者の「法定雇用率」が1.8%から2.0%に引き上げられたことや、該当企業の従業員規模が、56人以上から50人以上に引き下げられた点である。

こうした改正は当然である。というのは、我が国には現在、障がい者手帳が交付されている人が約750万人、人口比では6%もいるが、企業等に雇用されている障がい者は約38万人に過ぎないからである。

つまり、大半の障がい者は、働くことでしか得ることのできない4つの幸せ(1.人に必要とされる、2.人に褒められる、3.人の役に立つ、4.人に愛される)を得る場すら、未だ十分には提供されていないのである。それゆえ多くの働く意欲ある障がい者は、作業所とか授産所と呼ばれる施設で軽作業に従事している。

加えて言えば、その「工賃」も低く、1ヶ月約130時間の就労に対し、労働から得られる対価としての「工賃」は全国平均で、約13,000円前後に過ぎないのである。

ともあれ、今回の改正によって障がい者雇用企業が加速度的に増加するかというと、それは容易ではないと思われる。というのは、1.8%の法定雇用率であった昨年度ですら、全国平均は1.69%、法定雇用率未達成企業が46.8%も存在していたからである。

障がい者雇用に真剣に取り組まない企業関係者の多くは、「見合う仕事がない…」とか「今は余裕がない…」などが口癖であるが、こうした意識や対応は、この問題を直視しないばかりか、逃避しているといわざるを得ない。

というのは、筆者はこれまで障がい者雇用に尽力している全国各地の、多くの企業を訪問調査してきたが、これら社会貢献企業は、企業の都合ではなく、一人一人の障がい者の都合に、仕事や経営を合わせる工夫をすることにより、重度の障がい者の「働く喜び・働く幸せ」を実現してくれているからである。

そればかりか、目の前にいる働く意欲の強い障がい者のために、その人が出来る・好きな仕事を、あえて創造したり、自分が障がい者であるにもかかわらず、障がい者のために企業を立ち上げる、といった勲章ものの企業も少なからず存在しているからである。紙面に余裕がなくなってしまったので詳細に述べることはできないが、ここでは「勲章もの」の企業を2社紹介する。

その1社は、「アンシェーヌ藍」という店名の都内三軒茶屋にあるフレンチレストランである。家庭の主婦であった竹ノ内睦子さんが、施設を訪問の折「素敵なフランス料理店で働きたい…。お皿洗いでも…、お掃除でも何でもやる…」と、体を揺さぶりながら呻くような声で嘆願した一人の少女の夢の実現のため、お店をオープンしている。

2社目は「ウェルテクノス」という社名の岐阜県にあるIT企業である。生まれながらの重度の内臓疾患のある服部義典さんが、大学卒業後20社の不合格通知をばねに、自身で会社を立ち上げ、障がい者雇用に尽力してくれている企業である。

こうした経営者の存在を知り、障がい者雇用により一層取り組む企業が増加することが、私たちの願いである。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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