ステアリンク~高齢者のディズニーランド

経営

愛知県一宮市に「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」というデイサービスセンターがある。たんぽぽ介護センターを運営する「ステアリンク株式会社」の県内14か所の施設の1つで、2010年にオープンした。

先日機会があって当施設の視察と、創業者であり現経営者である筒井氏に話を聞くため訪問させていただいた。延べ床面積は、なんと1,300坪、あまりの広さに先ずは圧倒されたが、それ以上に驚いたのは、この施設を利用している利用者の多さと、笑顔、そして何よりもサービスを提供するスタッフの笑顔と親切丁寧な仕事ぶりであった。

聞くと、1日の平均利用者は約550人、その内要介護の利用者も40%もいるという。

なぜこうも高齢者が生き生きとしているのか、なぜニコニコ顔なのかを確かめるため、スタッフの案内で、施設の隅々まで見させていただいた。1階の広い空間には多くの円卓があり、フリースペースコーナーとなり、そこでも仲間と楽しそうに会話をしている高齢者の姿が印象的だったが、より驚いたのは、その周辺と2階に設置された個室を見たときであった。

個室は「パチンコルーム」「カジノルーム」「麻雀ルーム」「将棋ルーム」「カラオケルーム」「英会話ルーム」「中国語会話ルーム」「パソコンルーム」「囲碁ルーム」「図書ルーム」「陶芸ルーム」「お菓子作りルーム」「プール」等、そのリハビリプログラムはなんと250種類という。ちなみに、昼食も日替わりの20種類ものメニューのバイキングであった。

一般的にこうした施設は「管理」のためもあり、マニュアル化されたサービスが多かったり、お風呂も1回がルールの施設が多い。しかしながら、当施設は自分の好きなことを250種類のリハビリプログラムの中から選択をさせ、お風呂も何回でも入れるようにしている。

また、利用者がリハビリに励んでくれるようにと、施設内通貨「シード」を流通させている。ちなみに、2階の個室を取り巻くように設けられた約100メートルの通路(リハビリ通路)を、徒歩で一周すると100シード、杖をついて一周すると200シード、車椅子で一周すると300シードのご褒美をいただける。そして、そのシードを使い、施設内でコーヒーを友達と飲んだり、売店で孫に土産を買っていく人もいる。まるで当施設はお年寄りのディズニーランドそのものであった。

一般的にこの種の施設は利用者の満足度は高いが、サービスの提供者である職員が常に疲労困憊状態であるというところが多い。その結果、職員の離職率が高いばかりか、時として利用者の顰蹙を買うこともある。

しかしながら、当施設では離職する職員はほとんどいないばかりか、他の施設で疲れ果てた求職者の入社希望が多い。その理由は簡単である。筒井社長が「ES無くしてCS無し」という、経営方針の元、職員満足度も同時に高める組織運営をしているからである。

その詳細を述べる紙面的余裕がなくなってしまったが、あえて言えば、通常の1.3倍の職員配置、定年なし、施設内託児所の設置という職員のための経営の実行である。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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