1960年当時、79%あったわが国食料自給率は、今や39%にまで低下している。つまり日本人が生きていく上で絶対的に必要な食料の国内生産分はわずか39%、残り61%は海外に依存しているのである。
こうした自給率は、工業化社会ソフト・サービス型産業社会が進展している、先進国の必然的な傾向かというと、そんなことはない。事実、アメリカのそれは130%、カナダは223%、ドイツは93%、イギリスは65%、フランスは121%、イタリアは59%、そしてオーストラリアは187%等となっているのである。
つまり、わが国だけが異常に低いのである。こうした低い自給率は将来極めて危険である。というのは、わが国をはじめ、先進国のいくつかの国においては、既に人口減少社会に突入しているが、世界の大半の国においては、食料の供給が間に合わない規模とスピードで人口が爆発的に増加しているからである。
加えて言えば、農水産業を中核とする食料は、自然環境に大きく左右される産業であり、異常気象や大災害が発生した場合には、その供給は大きくダウンしてしまうからである。
大げさに言えば、こうした場合、当然のこととして食糧の輸入は困難になってしまうのである。つまり、ハイテク産業、ソフト・サービス産業だけでは、日本人の命と生活を守れないのである。
一方、アジアをはじめとした世界の国々における日本の「食産業」に対する関心と評価は年々高まっており、その輸出に大きな期待を寄せている。
こうした現実を踏まえれば、1次産業はもとより、2次産業関係者、そして3次産業関係者も、より、農水産業やその高次化産業である食料品産業に関心を高め、積極的にその事業化にチャレンジしていくべきと思われる。
では、どんな「食産業」の国産化を高め、国内外のマーケットに提案していった良いだろうか。結論を先に言えば、低価格品や量産品の自給率を高めようと考えるのはナンセンスであり、絶対的な安心・安全を保障した高付加価値で高級品な農産品や食品である。
より具体的に言えば、例えば「メロン」「栗」「さくらんぼ」「マンゴー」「紅茶」そして「高級ブドウ酒」等である。ちなみに現在の金額ベースでの食料自給率は、メロンが95%、栗が66%、さくらんぼが83%、マンゴーが65%、紅茶が69%、そして葡萄酒が32%となっている。これら産品の自給率を100%にしただけで、1,500億円以上の国内生産余地がある。そればかりか、これら商品は海外からのニーズ・ウォンツが高く、近年では輸出が増加しているのである。
わが国農業は、わが国の空洞化を救う可能性を秘めた産業なのである。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。