企業経営の最高・最大の使命は企業にかかわる全ての人々の幸せを追求することである。近年、社員やその家族の幸せを重視する企業は、増加傾向にあるが、仕入先や協力企業・外注先の社員の幸せを重視する企業は、残念ながら未だ少数派である。
それどころか、多くの企業、とりわけ大手有名企業にその傾向が強いが、未だ社外社員と評価位置づけるべき仕入先や協力企業・外注企業を、原材料とかコストとか、ひどい企業は景気の調整弁のように考えているケースもある。
その結果、円高や不況になると、真っ先にこれら企業に対し大幅なコストダウンを強いたり、外作していた仕事を一方的に内作してしまう企業もある。 正直、こんな理不尽なことをされ続ければ、発注者(取引先)のために望まれている以上の良い仕事をしようと考える企業等いないと思われる。
それどころか、発注者に対する反発心を強め、こうした「徳」のない企業とは将来取引を決別しようと考えるのは当然である。
こうした中、先般訪問させていただいた愛媛県東温市の「ウインテック」という中小企業の仕入先や協力企業・外注企業に対する姿勢は見事である。当社の現在の主製品は、産業用ロボットや自動生産機械で、とりわけ「おむつ製造機」の分野では全国有数の企業である。
創業者であり、現社長の駄場元さんは、かつて自身が勤務していた企業の仕入先や協力企業・外注企業軽視の考え方・進め方を反面教師に、独立するや仕入先や協力企業・外注企業を大切にする経営をトコトン実践している。
当社の仕入先や協力企業・外注企業を大切にする経営は随所に散りばめられている。例えば、大抵の組み立て型メーカーにあるように、当社にも仕入先や協力企業・外注企業との協力会といった組織があるが、その名前は「ウイン・ウイン会」という変わった名前である。これは一方ではなく双方が勝利者になろうとその関係性を会の名前を通じ取引先に明示したのである。
このため、当社ではとかく上から目線になりがちな多くの書類を相手にあえて出さず、一般市場商品を購入するような取引をするという。加えて言えば仕入先の提示した価格は一切値引きをしない。
このことは、当社が保有する機械設備の面でも驚く。それは当社では、仕入先や協力企業・外注企業が保有している機械設備はあえて自社では一切保有しないことを宣言し、実行しているのである。
事実、先般当社の本社工場を訪問してきたが、研究開発と最終組み立てに特化した美しい本社工場には、試作や加工のための機械設備は正直1台もなかった。
駄場元社長は、このことを「自社で機械設備を保有していた方が何かと都合が良いと思うことは少なからずあるが、そうすると、自社の機械設備の稼働率を上げるため、よからぬことを考えるから・・」という。
こうした仕入先や協力企業・外注企業を大切にする企業経営を続けてきた結果、これら企業との信頼関係は一層深まり、好業績を持続する一方、これら取引先を通じ、次から次に価値ある営業情報ももたらされているという。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。