少子化の影響をもろに受け、大都市圏・地方圏を問わず、幼稚園の経営は年々厳しくなっている。事実、1992年当時、14,801園であった幼稚園数が、2013年統計では13,043園となっている。この20年間で約1,800園、率にして12%もの幼稚園が閉鎖されている。
こうしたなか、全国の関係者から注目されている幼稚園がある。その名は池谷学園富士見幼稚園である。場所は横浜市港北区、電車では東急東横線の綱島駅から徒歩3分ほど行った商店や事務所・住宅が林立する街中にある。
その規模はと言うと、年少・年中・年長児あわせ180名強、スタッフの数も園長以下、保育者・事務職員などで約15名と言う小さな幼稚園である。
当園が関係者から高い評価を受けている訳は、その保育の考え方とそのための仕掛け・仕組みづくりである。当園の保育の基本的考え方は、3つに要約できる。
1つは統合保育。2つは縦割り保育と横割り保育の組み合わせ。3つは体験保育である。
この3つのなかで、とりわけ注目すべきは、第1に統合保育である。これは障害児も健常児も訳隔てなく受け入れ、同じ教室で学び遊ぶという保育である。各クラスで1~2名。全園児の1割程度は毎年、知的・身体に障害のある園児である。
資料によると、全国の幼稚園で障害児がいる園は約20%。その平均園児数は1~2名という実態から見ても、当学園の取り組みは見事である。
もとよりこれは、2代目園長である玉川氏が統合保育が健常児や障害児はもとより、社会にとってもより良い育て方になると、強い意志でそれを推進しているからである。もとよりここまで来る道のりは、健常児の母親の反対や心無い人々からの誹謗中傷もあり苦労が多かった。
しかしながら、今や障害児や健常児を問わず、関係者から高い評価を受け、片道40分もかけ、わざわざ当園に入園をしてくる園児も増加しているという。それもそのはず、この幼稚園を卒園し、小学校に入学した子供たちの言動が、関係者を驚愕させているからである。
紙面に余裕がなくなってしまったので、そのエピソードを1つ紹介してペンを置く。それはある小学校の運動会の練習時の出来事である。障害を持った小学1年生が走行中、転倒した。その時、すぐに駆けつけ、起こしてあげた2人の子供がいた。
あまりのすばやい対応に驚いた先生は、なぜあなたたちはそこまでしてくれたのと聞いた。すると、その2人は「幼稚園でも、いつもやっていたもん…」と、当たり前のように答えたという。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。