新潟市の郊外に「ダイニチ工業」という社名の企業がある。社員数は約500名、東証一部上場企業であるので知られた企業である。
同社の主事業は石油ファンヒーターや加湿器のメーカーで、両商品とも業界ではトップブランド企業である。
中小企業の専門家である筆者が、なぜ今回、同社をあえて取り上げたというと、大企業また上場企業でありながら、業績志向・自利志向の経営ではなく、幸せ志向・利他志向の経営を1964年の設立以来、愚直一途に実践してくれている、いい企業だからである。
同社の特筆すべき「いい経営」は随所に実行されているが、ここでは協力企業・外注企業に関することを紹介する。
周知のように、わが国の自動車メーカーをはじめ大半の大企業の生産システムは、無倉庫・無在庫経営、「必要な商品を必要な数だけ必要な時に」、つまり、ジャストインタイムといった経営である。
しかしながら、世の中は天変地変などもあり、理想どおりにはいかず、だれかが、とりわけ弱い立場にある企業が、在庫を肩代わりしているのが偽らざる実態である。
こうした中、業界の常識とは全く異なる外注政策を愚直一途に実践し、協力企業・外注企業から高い評価を受けているのが、ダイニチ工業である。
上述したように、同社の主力商品は、石油ファンヒーター、つまり冬物商品である。この商品は春先や真夏に購入する顧客はほとんどいない。それゆえ、生産効率を考えれば、売れ始める秋口から冬にかけて集中生産すれば、多くの倉庫や多くの在庫を持たなくてもいいことになる。
しかしながら、当社はこの季節商品の生産を、年がら年中平準生産をし続けているのである。つまり全く売れない真夏にも、もしかしたら暖冬等で販売数量がダウンするかも知れないのに、黙々と毎月一定量を創り続けているのである。
その最大の理由が見事である。吉井社長は、このことについて「協力企業・外注企業さんへの配慮です」と明言する。
吉井社長は「当社の社員数は約500名、協力企業・外注企業で当社の部品を毎日生産してくれている協力企業・外注企業の社員数は、約500名です。彼ら彼女たちの協力がなければ当社は存在できません。
また当社の協力企業・外注企業は総じて規模が小さく、当社への取引依存度が高い企業が多く、こうした企業に冬場だけ仕事を発注するから、いい商品を創ってくれ…は、正しくないし、不自然だ…」とまでいってくれた。
先日(9月上旬)同社を久方ぶりに訪問し、工場内をくまなく案内していただいたが、北海道等への出荷がスタートしたとはいえ、相変わらず工場内・倉庫内には、高い天井に届かんばかりに製品が山積みされていた。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。