働き方改革問う

経営

現在、国会で「働き方改革」が議論されている。最大の改革は、所定外労働時間、つまり残業時間に上限を設けるというものである。この改革が真に誠実に働く人々やそれを支援している家族の幸せ創りに寄与するか、正直疑問でならない。

資料によれば、年間で720時間、1ヶ月では100時間以下という内容である。年間で720時間ということは、月に直せば60時間、1日では3時間であり、1ヶ月100時間ということは1日あたりでは5時間ということになる。

終業時間が17時の会社では、3時間残業をさせれば20時の退社、自宅に帰れば21時前後になると思われる。ましてや5時間残業をさせれば22時の退社、自宅に帰れば23時前後になると思われる。

人が一番幸せを実感できる場は、家族団らんの一時であり、その中核的な場は夕食時である。こんなにも遅くまで社員に残業をさせていたならば、家族団らんの一時を、企業が奪うことになるといっても過言ではない。

それどころか、こんな長時間労働をやっていたら、社員は心身ともに疲弊し、精神や身体に病気を発症する人も多数出てくると思われる。

残業はやむを得ない時もあるとはいえ、問題はその程度である。結論を先に言えば、残業時間を規制するならば、月間20時間、年間では240時間、つまり、現在、国会で議論されている時間の3分の1である。

この残業時間の長さは根も葉もないことではない。筆者はこれまで8,000社を超える、あらゆる業種の企業の現場を訪問し、その経営を調査しているが、社員を病気にさせない企業・社員が離職をしない企業・社員のモチベーションが高い企業、もとより業績が安定的に高い企業においては、例外なく、社員1人当たり月平均残業時間が20時間以下、それどころか、大半の企業は10時間以下であった。

逆に言えば、社員を病気にさせる企業・社員の離職率が高い企業・社員のモチベーションの低い企業、さらに言えば赤字経営等、業績が常に低迷している企業においては、残業時間が例外なく30時間以上だったからである。

残業時間が長い会社は、業績が低いばかりか、社員の子供の数も少なく、こうした企業の存在が、この国の未来を危うくするのである。

残業規制をするなら、とりあえず、月間20時間以下、将来は10時間以下が望ましい。さすれば逆に知恵が出てくる。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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