株式会社升本フーズ~頑張る下町の弁当屋さん

経営

JR総武線に乗り、亀戸駅で下車、そこから徒歩で5分ほど歩いた駅前商店街の一角に、「株式会社升本フーズ」の本社兼店舗がある。

主事業は、仕出し弁当等、各種弁当の製造販売をしているほか、料理店を本店近くでオープンしている。都内を中心に、約10店舗の直営店もあり、業界では知られた企業である。

同社の創業は古く、今から114年前の1905年、現社長の祖父が亀戸で升本酒屋店としてスタートしている。戦後は、酒屋から料理店として再スタートしている。

その後、火事で本店を全焼してしまうなど、幾多の苦難があったが、めげず懸命に経営革新に努め、成長発展し、現在の社員数は約200名である。

同社の今日までの成長発展の要因は多々あるが、その最大の要因は、事業の急成長・急拡大を戒め、明確な経営理念を定め、この理念に基づき、ぶれない経営を愚直一途にしてきたことにある。

同社の経営理念(基本理念)は、「一人のお客様への喜び、一人の社員の幸せ」である。又それに加え、全社員が迷った時の判断基準も明示している。

それは、
●善いか悪いか
●公平であるか
●真実であるか
●そのことが人のためになるか、
である。

巷では、経営理念には、良いことが書かれているが、言動が伴っていない企業が多いが、同社の理念経営は徹底している。

その1つが食材へのこだわりである。同社が和正食で使用する大半の材料は、有機栽培の野菜である。また、肉・魚・乳・卵製品・そして精白糖等は一切使用せず、素材そのものの美味しさを最大限引き出している。

そればかりか、調味料においても、天然塩・長期貯蔵醤油等厳選したものを使用し、化学調味料・保存料さらには、合成着色料などは一切使用しない。

こうした姿勢は、社員の就労面でも貫かれている。業界の多くは、業種柄、長時間労働が常態化しているが、同社の現職の社員の残業時間は1ヶ月当たり10時間程度以下という。もとより、これは社員に負担をかける無理な売上計画を立てないばかりか、一般の1.2倍から1.3倍の社員を現場に配員しているからに他ならない。

余談であるが、升本本店の料理店の夜の時間は、17時から21時であるが、ラストオーダーは何と19時30分である。

こうした企業の存在を見ると、CSも大事であるが、もっと大事なことは、業種・業態のいかんを問わず、ES経営ということがわかる。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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