本橋テープ~細幅織物でがんばる中小企業

経営

静岡駅で東海道線に乗り換え、約20分の藤枝駅で下車し、そこから車で25分ほど走った吉田町に本橋テープ株式会社という頑張る中小企業がある。

主事業は、細幅織物の生地やその加工品の製造販売である。ちなみに、細幅織物は絹や綿・麻といった天然繊維やポリプロピレンやナイロン等の化学繊維を原糸とするテープ幅が13cm未満の織物のことである。より分かりやすく言えば、バックや袋物のショルダーベルト、車のシートベルトなどに使用されている。

業界は、今から約40年前までは国内外を問わず、旺盛な需要に支えられ威勢を誇っていた。しかしながら、その後、円高経済や経済社会のボーダレス化・グローバル化が加速していき、外需は輸出から海外現地生産に、一方、内需は、国内生産から中国をはじめとしたアジアの国々の現地企業や、進出した日本企業からの怒涛の如くの流入等もあり、近年は衰退傾向が著しい。

事実、本橋テープが立地している吉田町やその周辺には、かつては細幅織物業者が150社以上も立地集積し、全国有数の細幅織物の産地として、名をはせたが、今やその数は1割程度まで激減してしまっている。

こうした中にあって、同社がしぶとく生き残ってきた理由は、多々あるが、最大の要因は事業承継をした現社長の本橋真也氏の時代観と決断が正しかったからと言える。

本橋社長は、細幅織物業界が直面している問題の所在は「受注機会の激減」や「受注単価の悪化」等、海外や取引先といった「外」にあるのではなく、「自らが市場創造できない」「自らが値決めができない」等、つまり「内」にあると考え、この間、経営革新の努力を全社一丸となって行ってきたのである。

具体的には、どうしても受け身になりがちな、BtoB取引主体のビジネスモデルを、自らが市場創造し提案するBtoC主体のビジネスモデルに変革していったのである。

もとより、このためには、社員の働き甲斐・所属する幸せを高めることが必要と考え、「社員ひとり一人が会社に行きたくなる会社づくり」を高らかに掲げ、実践するとともに、多くの同業他社が人減らし経営をする中、同社は逆に老若男女を問わず、理念共感型人財の採用をしてきたのである。

こうした努力と苦労が実り、この10数年間で、数多くのOEM商品(相手先ブランド商品の開発製造)や独自ブランド商品を全社員で開発し、市場に提案している。その一例をあげると「ブレスレット」「ミニショルダーポーチ」「ハンモックチェアー」「トートバック・リュック」「携帯ストラップ」「ベルト」等々、私たちを楽しませてくれるユニークな商品ばかりである。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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