会宝産業~頑張る静脈産業

経営

JR金沢駅に下車し、そこからタクシーで15分ほど走った産業団地の一角に「会宝産業」という社名の中小企業があります。

主事業は、自動車のリサイクルや、中古自動車部品の輸出販売をしています。

創業は、今から53年前の1969年、現会長の近藤典彦さんが弱冠22歳の時、有限会社近藤自動車という社名でスタートしています。もともとは、自動車を解体するだけの事業でしたが、時代変化を直視し、その後、自動車部品のリユース・リサイクル企業へと変革していったのです。

創業当時は、高度経済成長の真っただ中にあり、日本の自動車産業は、国内外で破竹の勢いで成長発展していました。こうしたラッキーな環境下であったこともあり、この時代の起業家の多くは、自動車産業の関連下請企業として創業しました。

しかしながら、近藤さんは、成長・発展がいわば保証されていた自動車の下請部品工場としての創業ではなく、その産業の後始末をする「静脈産業」を、あえて選んだのです。

先日お伺いした折、その理由を聞くと、「自動車は便利で、これから長期にわたり成長発展が見込まれていましたが、作りっぱなし・売りっぱなしでは、やがて日本だけではなく、世界的規模で、自動車の存在が原因で、環境汚染や環境破壊が進行してしまう…。この社会的課題を誰かが対処しなければと思い、あえて選択しました」と話してくれました。

ちなみに、現在、国内でリユース・リサイクル車は、年間約1100万台あります。そのうち、約680万台は中古車として国内で再販売、そして海外輸出車は約120万台、残り300万台の車は廃車となります。

会宝産業は、この廃車してしまう車に着目し、そのリサイクルをビジネスとすることを考えたのでした。まさに同社は、このリサイクル・リユースの先駆的企業なのです。

同社をはじめとした業界の努力もあり、自動車のリサイクル率は年々高まっていき、今や95%という耐久消費財分野ではトップクラスにまで高まっています。

同社の現在のビジネスは、大きく3つあります。1つ目は、上述したように、中古車や廃車を、仕入れ、解体・分別して、再利用できる部品を取り出し販売するリユース事業です。より具体的に言えば、エンジンやタイヤ・ホイール・ラジエーター等で、これら商品は、現在、国内ばかりか、世界の90か国以上に輸出販売しています。

とりわけ、世界の各国から需要が多いのは、自動車のエンジンで、このため、常時3000基ほどストックしています。

2つ目は、リユースできない部分の再資源としての利用・活用ビジネスです。例えば、車の座席シートは、オフィース用の椅子に作り替えたり、シートベルトは、バックやカードケースに作り替えられ、販売されています。

そして3つ目は、仕入れた中古車を、再点検・リニューアルし、新たな中古車として販売する事業です。ちなみに、年間仕入れる車は、約13000台ですが、そのうち約400台は「新たな中古車」として販売されています。

近年では、将来のために4つ目の事業が動き出しています。それは農業事業です。一見、本業の車ビジネスとは直接的には関係がないように見えますが、そうではありません。大いに関係があるのです。

それは同社が仕入れた中古車等から、排出される年間10万リットルもの廃油の処理のためなのです。この廃油をボイラーの熱源として再利用しているのです。現在は、自社農園を作り、そこでトマトを栽培し、市場販売をしています。

残念ですが、同社の成長発展の要因やビジネスモデル等を、述べる紙面的余裕がなくなってしまいましたが、同社の取り組みは、SDGsが叫ばれている昨今、多くの企業のこれからのビジネス展開に大いに参考になると思われるので、是非、同社のホームページを見て欲しいと思います。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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