この2年間は、コロナで中断していましたが、それまでは2ヶ月に1回のペースで、日本にやってくる中国の産業視察団のお手伝いをしていました。具体的には、日本で訪問調査する企業の選定アドバイスと、私の講義です。
10年ほど前までは、日本に来る中国の産業事情視察団の視察先は、日本を代表する自動車会社やエレクトロニクス会社、あるいは全国チェーンの流通産業などでした。
また講演をする講師も、大企業の経営学、とりわけ、経営戦略論や経営管理論を専門とする理論経営学者が大半でした。
ところが、近年では、それが大きく様変わりしています。
まず視察先についていえば、もとよりすべてではありませんが、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の受賞企業など、人を大切にした中小企業を見たいという要望意見が圧倒的多数なのです。
そして、その後に勉強したい講演内容は、大企業が実践している効果・効率を高めるようなビジネスモデルのやり方等ではなく、中小企業経営・人を大切にする経営を専門とする私を指名してくるケースが多いのです。
既に、私の本が数冊、中国語で翻訳されていたり、中国企業向けの本も執筆したことがありますが、それでも、最初の内はその意味が分かりませんでした。ですから、私はいつぞや、視察団の団長である中国人経営者の方に「なぜ中小企業なのですか…」「なぜ私なのですか…」と、質問をしたことがあります。
すると、中国人の経営者は、はっきりと「もはや日本の大企業に学ぶことは、ほとんどありません…、逆に学び・自社に導入すればするほど、離職者は増大し、企業の中に冷たいギスギスしたような空気が流れ、企業経営がうまく回らなくなってしまいます…」。
「私たちが学びたいのは、日本の大企業が実践している経営学ではなく、人を大切にする経営を実践している中小企業なのです。そして、聞きたいのは、そうした経営学を研究・普及されている先生の話なのです…」と言ったのです。
驚くのは、毎回20名から30名の経営者が来日するのですが、その学ぶ姿勢や質問内容です。
当然、居眠りをしたり、中座をするような方は、ほとんどおらず、熱心にメモを取っているのです。しかも、質問も重箱の隅を突っつくような内容ではなく、問題の核心に迫るような内容なのです。
より驚くのは、終了後の翌日、私に届く感想文の内容です。
参加した経営者の大半が、「自分がやっている経営は間違っていなかった。今日はそのことが確認できました…」とか「社員のためにやるべき新しいヒントをたくさん教えていただきました。会社に帰ったら、社員と相談をし、やってみようと思いました…」等と書いてあるのです。
こうした言動を見ていると、日本の未来が心配でなりません。
アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。
筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。