日本を代表するモノづくり企業2社

先日「人を大切にする経営学会」関西支部の定例フォーラムが、大阪市内で開催されました。

当日の報告者は、一人が東海バネ工業の夏目社長さん、もう1社がヒルトップの山本副社長(現・相談役)、そして私の3人でした。

2社ともが知る人ぞ知る、日本を代表するモノづくりの中小企業であり、2社とも既に10年以上、好不況に左右されず、快進撃を続けている企業です。

両社に共通する経営が多々確認できましたが、ここでは3点に絞り紹介します。結論を先に言えば、この3つこそ、全ての日本の中小企業が目指すべき方向と言えます。

第1点は、両社ともに多品種小ロットの生産企業という点です。多くの中小企業が量産物を好む傾向が強いのですが、両社とも、それを嫌い、あえて小ロット物に特化した経営をしている点です。ちなみに、東海バネの平均ロットは3個~5個であり、ヒルトップのそれは、ほとんどが1個なのです。

私はよく、大企業と中小企業の最大の違いは規模ではなく「生きる世界の違い」といっています。つまり、大企業は大ロットの物を担うために存在し、逆に、中小企業は、大企業が苦手な小ロットの物を担うために存在しているという意味です。

第2点は、両社とも、多種多様な多数の取引先があるという点です。ちなみに東海バネ工業もヒルトップも、年間取引企業は1000社~3000社にも及びます。

しかも、両者に共通していることは、自動車・エレクトロニクス・医療・福祉・建設・農業・食品等、まさにあらゆる業種企業との取引です。このため、両者ともに取引先1社への、あるいは1業種への依存度は10%をはるかに下回っているのです。

こうしたこともあり、取引先と対等の、お付き合いができるとともに、どこかの企業や、どこかの業種の仕事が、ある日突然、なくなってしまったとしても、びくともしないのです。

そして第3点は、両社の社員の大半は、いわゆる「ブンジニア社員」という点です。ブンジニア社員というのは、かつて私が名付けた造語ですが、簡単に言えば、理系の知識・技術も、文系の知識・技術も兼ね備えた、高度複合人財という意味です。

両社ともが、日本を代表する高度技術を有する最先端的な企業ですが、それを担ってくれているのは、著名な大学の理工学部や情報学部、あるいは、大学院の工学研究科や情報技術研究科等を卒業した社員だけではなく、何と半数以上は文系出身なのです。余談ですが、その先頭にいる夏目社長さんも、山本副社長さんも文系出身なのです。

もとより、それを可能にしたのは、一人一人の社員を一層輝かせるための事務・営業・製造・技術等へのローテーション人事なのです。

こうした両社の実態を見ると、多くのモノづくり中小企業は、理系出身の学生の確保が難しいとか、だからこそ技術開発が困難などと言っていますが、それは解決不可能な問題等ではないということが示されています。

 
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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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