経営学の教科書では、「経営資源に限界のある中小企業は、あれもこれもではなく、幅を狭め『専門特化型』の経営を目指すべき」等と書いてあります。
しかしながら、こうした経営が通用する時代は、取引先や市場の安定や見えるが基礎的前提です。ですから、近年のように取引先や市場はもとより、経営環境が混沌としている時代においては、こうした専門特化型の経営は、危険極まりないと思います。
というのは、メインの取引先や商品が、ライバル企業との競争に敗退し、その商品の生産や販売を中止してしまうこともあるし、また、イノベーションにより、その商品が不要になってしまうこともありうるからです。
今回のコロナでもそうでしたが、少数の取引先や市場に特化した経営では、その商品が、激減してしまった場合、減少分を他の商品でカバーできないからです。
ですから、企業は不測の事態に備えた取引先や商品の選定・分散が、重要かつ必要なのです。取引先でいうならば、可能な限り、多く持ち、メインの取引先の仕事が、例えゼロになっても、耐えられ・雇用が守れる経営をすべきなのです。
こうした経営は、管理コストは上がり、軌道に乗るまでは利益率も低下するかもしれませんが、気にすることはありません。大切なことは、会社を潰さないこと・社員の雇用を守ることであり、それを恐れることはありません。
筆者の8000社以上の研究成果を踏まえ、あえて言えば、取引先や商品の分散は、最大でも売上高比30%程度以下、既にそうである企業は、10%程度以下が望ましいと思います。
また商品・市場でいうならば、自動車業界だけといった経営ではなく、自動車業界も電子業界も、さらには医療業界向けもといった、多種多様な商品を担う経営の方が、不透明・不確実・不安定の時代においては、必要不可欠な戦略になるのです。
またB to B向けの商品だけではなく、B to C向けの商品の確保や、商品の販売チャンネルも多様なチャンネルがあった方がいいと思います。
コロナは、様々な面で乱世に生きるための、新たな知恵を与えてくれました。
例えば、本社が埼玉県戸田市、生産拠点が群馬県・福島県・山形県にある株式会社大成という社員数約200名のモノづくり企業があります。
同社のHPを見ると、「当社は業種分類不可能型企業です…」等と書いてあります。同社の取引先は、常時100社を優に超し、関連する市場は、自動車分野や医療分野・農業分野・食品分野等を含め30以上になり、まさに業種分類が不可能な企業なのです。
同社の青柳社長は、
「どんな時代であっても、社員と家族の命と生活を守らなければなりません。何かに特化したら、その取引先や商品が無くなってしまった場合、社員やその家族に対し『ごめん』では済まされません」
「今回のコロナでも激減した商品もありましたが、逆に激増した商品もあり、バランスが取れました…」
とニコニコ顔で話してくれたのです。
余談ですが、「業種分類不可能型経営は、坂本先生の著作からヒントを得ました…」と話してくれました。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。