2018年度の第10回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で厚生労働大臣賞を受賞したのが協和(現・協和日本ホールディングス)です。
かばんやランドセル製造で有名な同社は、第3回の同大賞審査委員会特別賞に続く、2度目の受賞で、数ある受賞企業の中で初の快挙となりました。
とりわけ評価されたのは、社員とその家族を大切にした一段と進化した経営はもとよりですが、業界に先駆けて、ユニバーサルランドセルの製造販売に積極的かつ継続的に取り組んでいる経営姿勢でした。
ユニバーサルランドセルは、様々な障がいがあり、普通のランドセルを背負うことができない子供たちのための手づくりのランドセルのことです。
障がいのある子供達も、皆と同様にランドセルを背負い、小学校に行くのが最大の夢なのです。また親としても、障がいをもって生まれてきたわが子が、小学校入学まで育ってくれたという事実を万感の思いと共に胸に迫ってくるといいます。
だからこそ、どんな注文にも絶対に「ノー」と言わずに引き受けているのです。
あるときは生まれつき、両肩がない子でも背負えるものという依頼がありました。営業の社員は何度も電話で確かめながら、段ボールで上半身の模型を作製。それを工場に持ち込み、職人が精魂込めて難しい依頼に応えました。社員は「苦労した分の倍の喜びが返ってくる」といいます。
こうしたランドセルを同社は年間200~300も製造しているのです。
一つを製造するのに通常の数倍の時間や手間がかかりますが、それを通常とほとんど変わらない価格で提供し続けているのです。
ある時は、ようやく完成したランドセルを持って社員が注文主宅を訪れると―。立ち上がれない子供がランドセルを背負いたい一心で車いすから降り、自分の方にはって来たのです。その姿を目の当たりにして社員は涙があふれたそうです。
かけがえのないランドセルをわずかしか使えず、短い命を閉じた子もいました。「待ちに待ったランドセルを棺の中に一緒に入れてあげました」という親からの手紙に、社員一同は号泣したのでした。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。