クロフーディング~障がい者を多数雇用するフレンチレストラン

経営

大阪に株式会社クロフーディングという社名の企業があります。

フレンチレストランのほか、宿泊施設やウエディング事業の運営、さらには、障がい者の就労支援や放課後デイサービス事業等、多彩な事業を展開しています。

各種事業の中核は、フレンチレストラン事業で、天満橋近くの「ル・クロ・ド・マリアージュ」等、大阪に3店舗、兵庫県丹波市に木造二階建ての女学校校舎を改装した「ル・クロ丹波邸」、この他、フランスパリにもお店があります。

同社の設立は2000年、現在のオーナーシェフである黒岩功氏が奥さんと二人でスタートしています。フランス料理店のシェフになったきっかけは、黒岩さんの育った環境にあります。

黒岩さんのご両親は、黒岩さんが幼少の頃、離婚したのです。一緒に暮らすようになった母親は、生活していくため、朝から夜遅くまで仕事をしていたこともあり、黒岩さんは、小学生の頃から実質、自炊状態の生活でした。性格も暗くなってしまい、友達もできず、今でいう引きこもりのような生活状態だったと言います。

そうした生活が続く中、小学校の家庭科の授業の中で、教師が「だれかキャベツの千切りを欲しい…」と、生徒に声をかけました。黒岩さんは、生まれて初めて誰よりも早く「僕がやります…」と言って、手を挙げたのです。

自炊生活で、キャベツの千切りなど慣れたもので、あっという間に、先生も顔負けするくらい上手にカットしたのです。先生はもとより、クラスの生徒全員が、「クロちゃんすごい…」と、初めて人から褒められました。この日をきっかけに、黒岩さんは、一人ぼっちではなくなり、堂々と生きる自信がついたと言います。

その後、料理の専門学校に進学、そして、あるレストランに就職するのですが、もっと腕を磨きたいと、本場、フランスに渡ることを決意しました。

もとより、フランス語は喋れないし、フランスに知人がだれかいたわけではありません。過酷な日々が続きますが、めげず、その後、数年間、苦労を重ね修行し、日本に帰ってきたのです。

そして、準備をし、ル・クロの一号店となる「西心斎橋店」を、地下鉄御堂筋線新西橋駅近くにオープンしたのです。

同社が創業以来これまで、社員やその家族のために行っている経営姿勢や、開店時間外に来店した老夫婦への対応や、フランス料理にあえてお箸を置くといった顧客に対する優しい経営など、紹介したいエピソードが多々ありますが、今回は、筆者が、ル・クロを高く評している障がい者の雇用について、述べることとします。

現在、同社には、75名のスタッフが在籍していますが、そのうちの50名は障がいのあるスタッフ(同社ではキャストと呼んでいる)です。外食産業でも障がい者雇用に積極的に取り組んでいる企業が、少なからずありますが、これほど多くの障がい者を雇用し、成長させてくれている企業は、恐らくないと思います。

ル・クログループが、障がい者雇用に取り組むようになったのは、横浜市でお菓子を作る工房をつくろうとしていたAさんのお手伝いをしたことでした。黒岩さんは、自分も人に活かされた身、恩返し・恩送りをしたいと思っていたので二つ返事で引き受けました。

そこで一心不乱で一生懸命働く障がい者に、お菓子作りを、親切丁寧に教え、大阪に帰りました。

すると、タイミングを合わせたように、ある特別支援学校の先生がB子さんという女子学生の履歴書をもって就職を依頼に来たのです。B子さんは、重度の障がいがありましたが、外食産業で働くことが好きで夢でした。

それを知っている先生も、多くのお店に就職を依頼して歩いたのですが、「うちは客商売ですし、障がい者ができる仕事はありませんから…」等と言われ、全て不採用になってしまいました。それで、先生が「もしかしたら…」と、ル・クロにたまたま来たのでした。

黒岩さんは、お店にB子さんだけでなく、家族にも来ていただき、職場の全てを見ていただきました。そして全スタッフにも会っていただきました。

黒岩さんは、B子さんを一生幸せにすることができるだろうかと、少々迷いもありましたが、ル・クロの全スタッフの「B子さんを採用してください…」という熱い声と、B子さんの、ル・クロで働きたいという強い思いも感じ、採用したのでした。

黒岩さんたちは、入社してすぐにB子さんのお菓子作りの才能に気づきました。ですから、この才能を伸ばそうと、B子さんが何度失敗しても、ル・クロのスタッフ全員で応援をし続けました。

ある日のことです。ル・クロ・ド・マリアージュで結婚式を挙げる新郎新婦がいました。二人は大の猫好きで、ウエディングケーキを飾る猫のお菓子のリクエストがありました。黒岩さん達は、それをB子さんに任せたのです。

B子さんは、二人がかわいがっている猫の写真を見ながら、通常の数倍の時間を費やし、ついには、ほぼ一人でそれを作り上げたのです。

そして、結婚式の当日、司会者が「これをつくってくれたのはそこにいるB子さんです…」と、大きな声で紹介しました。新郎・新婦は余りに素敵なウエディングケーキとそれをつくってくれた素敵なユニホームを着たB子さんを見て、その場に泣き崩れたそうです。

このことがきっかけで、フランス料理店で働きたいという障がいのある人々が全国各地から訪ねてくるのです。こうして今では、50人もの様々な障がいのあるスタッフが、自分の得意な分野で生き生きと働いているのです。

黒岩さんは、「食材の仕込みは、教えれば誰にもできます。お客様に提供する料理の味は、だれが出しても変わりません。フランス料理店で働きたいという障がい者の方々の受け皿に少しでもなれば…」と話してくれました。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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