全国には、デイサービス(通所介護サービス)を提供する事業所数が、約24,500事業者あります。高齢化社会への本格的突入もあり、かつて程ではありませんが、依然増加傾向にあります。
しかしながら、時代に求められているデイサービスですが、近年では、利用者やスタッフに嫌われ、規模を縮小せざるを得ない事業所や倒産企業もかつてなく増加しています。
恐らく、これからは、デイサービスも「利用者者スタッフに選ばれる産業」となり、淘汰される事業所が続出していくものと思われます。
こうした中ではありますが、全国各地を見渡すと、利用者はもとよりスタッフからも高い評価を受け、なくてはならないデイサービスとして注目されている企業も、少なからずあります。
その一つが、今回取り上げる「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」です。場所は、名古屋駅から東海道線に乗車し尾張一宮駅下車、そこから車で5分ほど走ったところにあります。
「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」を運営するのは「ステラリンク株式会社」で、この施設は、2010年にオープンしています。
先日、機会があって、仲間と当施設の視察と、創業者であり現経営者である筒井氏に話を聞くため、訪問させていただきました。
まず驚いたのは、その巨大さです。当施設の延べ床面積は、なんと1,300坪、あまりの広さに、先ずは圧倒されましまたが、それ以上に驚いたのは、この施設を利用している利用者の多さと、その笑顔、そして何よりもサービスを提供するスタッフの笑顔と親切丁寧な仕事ぶりでした。
聞くと、1日の平均利用者は約250人、業界の平均利用者数は25名から30名ですので、何とその10倍の規模です。しかも業界の平均は、女性の利用者が圧倒的多数であるにもかかわらず、「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」は、男女がほぼ半数なのです。
なぜ、こうも利用者である高齢者が生き生きとしているのか、なぜニコニコ顔なのか、なぜ、多くの男性が利用するのか等を確かめるため、スタッフの案内で施設の隅々まで見させていただきました。
1階の広い明るい空間には、多くの円卓があり、通路の広いフリースペースコーナーでした。そこでも仲間と楽しそうに会話をしている高齢者の姿が印象的でしたが、より驚いたのは、1階のフリースペースコーナー周辺や、2階に設置された個室を見た時でした。
個室は「パチンコルーム」「カジノルーム」「麻雀ルーム」「将棋ルーム」「カラオケルーム」「英会話ルーム」「中国語会話ルーム」「パソコンルーム」囲碁ルーム」「図書ルーム」「陶芸ルーム」「お菓子作りルーム」「プール」等、そのリハビリプログラムは、なんと250種類もあるといいます。
ちなみに、昼食も日替わりの20種類ものメニューで、かつバイキング方式でした。
一般的に、こうした施設は、利用者の「管理」のためもあり、マニュアル化されたサービスが多いと思いますが、当施設は、自分の好きなことを、好きな時間、250種類のリハビリプログラムの中から選択をしてもらい、お風呂も何回でも入れるようにしています。
また、利用者がリハビリに励んでくれるようにと、施設内通貨「シード」を流通させています。ちなみに、2階の個室を取り巻くように設けられた約100メートルの通路(リハビリ通路)を徒歩で一周すると100シード、杖をついて一周すると200シード、車椅子で一周すると300シードのご褒美をいただけます。
利用者は、このシードを欲しいため、リハビリに頑張っているのです。利用者は、このシードを使い、施設内でコーヒーを友達と飲んだり、売店で孫に土産を買っていく人もいます。まるで当施設は、お年寄りのディズニーランドそのものでした。
一般的に、この種の施設は、利用者の満足度は高いが、サービスの提供者であるスタッフが常に疲労困憊状態であるというところが多いと思います。そして、その結果、スタッフのサービスが低下しまうばかりか、離職率は高くなっています。こうして悪循環に陥っている施設が、実に多いと思います。
しかしながら、当施設では離職するスタッフはほとんどいないのです。そればかりか、他の施設で疲れ果てた求職者の入社希望者も多いのです。
そのわけを一言でいえば、当施設のリーダーである筒井社長が「ES無くしてCS無し」という経営方針の下、利用者満足度を高めるため、職員満足度をそれ以上に高める組織運営を愚直一途にしてきたからです。
その詳細をここで述べる紙面的余裕はありませんが、例えば、スタッフの配員数への配慮やスタッフ一人一人が好む働きかたへの用意と施設内託児所の設置などもその1つです。
ちなみに、当施設では、利用者に対するスタッフの配員数は、業界平均の1.3倍といいます。筒井社長は、「人件費はその分上がりますが、その分無理な働きかたをするスタッフもいませんし、それどころか、お互い様の風土が醸成されました。
また、スタッフも多くのスタッフを配員することで、時間的にも余裕ができましたので、利用者に時間をかけた、寄り添うサービスの提供も可能になりました。
その結果、離職する人もほとんどいなくなったばかりか、利用者に対するサービスも高まりました。ですから、今は、新聞等のマスメデイアに広告をする必要性もありませんし、スタッフの募集広告もしなくても済むようになっています。
ですから、広告宣伝費や求人広告費がほとんどない分を人件費に回せます…」と話してくれました。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。