最新の統計(2018年)によると、わが国には、現在、住宅の数が6241万戸あります。世帯の数は5393万世帯ですので、住宅の数が848万戸、率にして15.7%、上回っています。
人口はすでに右肩下がりに減少を続けており、当然ですが、新設住宅の着工件数は、年々大幅に減少しています。事実、かつては1年間に170万戸以上も建てられていましたが、近年では100万戸も大きく割り込み、2022年は86万戸程度になっています。
一方、人口の高齢化に伴い、新設住宅にかわり、住宅のリフォームの需要が年々高まってきています。
家計調査年報を見ると、40歳代の世帯主世帯の住宅のリフォーム費用は、年間4万円前後に対し、50歳代では7万円前後、そして60歳代では11万円前後にまで増加しているのです。
こうした中、住宅メーカーはもとより、家電量販店、さらには、プロパンガスや都市ガスの提供業者等の異業種からも、住宅リフォーム市場に新規参入の動きが活発化してきています。
しかしながら、利用者とりわけ高齢者世帯の弱みに付け込んだ、いわゆる悪徳業者も多い業界であり、依頼をしたいのに依頼をためらう顧客も少なからずいます。
こうした業界にあって、創業以来、五方良しの正しい経営を愚直一途に実践し、着実に成長発展している企業も少なからずあります。
その1社が自らを「住医」と位置づける株式会社グッディーホームというリフォーム会社です。
同社の設立は、今から19年前の2004年、現社長である卯月靖也氏が、11年間の住宅関連産業のサラリーマン生活を辞め、仲間3人でスタートした企業です。以後、ほぼ順調に業績を伸ばし、現在では本社を含め、武蔵野エリアに4店舗をおき、社員の数は役員やパートを含め40名、売上高も約8億円にまで成長発展しています。
本社は、東京駅から中央線に乗り30分ほど走った三鷹駅に下車し、そこから車で5分ほど行った商店街の一角にあります。外から見ると、素敵な喫茶店のような雰囲気が漂う事務所であり、このため、時々、喫茶店と間違えて事務所に入ってく人もいるといいます。
同社の成長発展の要因は多々ありますが、あえて言えば、存在目的である理念経営に基づいた「社員とその家族第一主義経営」と「顧客満足度を高める感動経営」さらには、社外社員でもある「協力業者を大切にする経営」の愚直一途の実践にあると思います。
同社の経営理念は「約束・継続・感謝」~必要な時にお役に立てる住まいのパートナー~です。
同社の創業者であり、現社長である卯月さんは、わずか3人でスタートした企業でしたが、どんなに時代が変化してもブレないように、策定したのです。つまり「損得」ではなく「善悪」に基づく正しい経営の実践を誓っての設立だったのです。
次の社員第一主義経営の実践で言うならば、卯月社長は、自身のサラリーマン時代の体験を踏まえ、自分が嫌なこと、できないことを決してスタッフに求めない経営、逆に言えば、自分が社員だったら、やって欲しいこと・言って欲しいことをできるものから、少しずつ実践してきました。
その1つですが、全社員に対し、月次決算の公開をし、その内容を正しく理解していただくために丁寧な説明を行ってきました。こうした基本姿勢もあり、会社の中は、実にいい風が吹いており、まさにアットホームなのです。
また働き方改革にも、設立当初から積極的に取り組んでおり、社員には「子供の行事を何よりも大事にしなさい」など、働き方も社員の数だけ用意しています。
さらには、顧客満足度経営で言うならば、同社の重点経営は顧客の新規開拓ではなく、既存客リピーター客です。
こうした経営は理念からなのです。こうしたこともあり、同社のリピーター客が極めて多く、そのリピート率は90%をはるかに超えるといいます。ちなみに、顧客満足度調査では、「満足」が、なんと99%といいます。
まるで自分の親戚のように、事務所に立ち寄り珈琲を飲んでいく顧客も多く、その方々からの紹介客も多いといいます。
同社がいかに顧客に支持されているかを示すエピソードを1つ紹介します。
それは横断歩道で転んだお年寄りの話です。
足がもつれたのか、横断歩道の真ん中で一人のお婆さんが転んで立ち上がれなくなってしまいました。それを見た人々が駆け寄り、「救急車を早く」と叫んでいると、そのお婆さんは「救急車はいい…、グッディーさんを呼んで…」と叫んだといいます。
ちなみに、そのお婆さんは一人暮らしで、グッディーホームが住宅のリフォームでお世話をしている顧客の一人だそうです。
最後に協力業者を大切にする経営の取り組みを紹介します。
リフォーム業界は、その全てのサービスを、自前で行うことは困難であり、大工・解体業・左官・塗装・電気工事・内装・水道工事・外構・板金・畳・屋根職人やタイル職人等の協力業者の支援無くして成立しません。
しかしながら、リフォーム業者の中には、使ってやっているとか、工事の単価をたたいたり、はたまた都合のいいような使い方をする企業も多いと思います。
この点でもグッディーホームさんは見事と思います。
それは、協力業者から上がってくる見積書を1円もカットしないばかりか、資金繰りが厳しい業者に対しては、代金を前払いで支払うこともあります。様々な会社のイベントには、パートナー企業・仲間として参加していただき、ともに成果を分かち合う活動もしています。
余談ですが、同社の会社案内を見ると、同社の40企業以上の協力業者(職人)の一人ひとりが、写真入りどころか、趣味や家族構成まで掲載されていました。
五方良し経営が見事に実践されている有数のリフォーム企業です。
アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。
筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。