日本ではだいぶ前からサービス産業化が進んでいて、製造業とサービス業の境目がだんだんとわかりづらくなってきていることは皆様も実感されていることと思います。実際に、我々が購入する商品のほとんどは、モノとサービスの組み合わせとして提供されています。
新型コロナウイルスは、多くの事業者にこの先のビジネスのあり方について、見直しを迫っています。これは、これからのサービスの提供のあり方への問いかけでもあると筆者は考えます。
その問いかけに応えるためには、“サービス”の特徴について理解をしておく必要があります。
そこで本コラムは、“サービス”とは何か、ということを確認することにします。なお、ここでの“サービス”は、一般的なものであり、例外もあり得ることをご承知置きください。
サービスの4つの特徴とは
サービスがもつ代表的な特徴は以下4つのように言われています。“モノ”との比較の観点で見ると分かりやすいと思います。
サービスには形がない(無形性)
当たり前とは思いますが、その名の通りサービスはモノと違って形がありません。この特徴により顧客が事前にその内容や質をチェックすることが困難という問題が生じます。
消費しない限り価値がわからないので、購入するのに勇気が要ります。
生産と消費が同時に起きる(生産と消費の同時性)
対人サービスの場合に大きく現れる特徴で、生産と消費がほとんど同時に発生するという性質です。対人サービスの場合には、サービス提供の対象である顧客は、提供されるその場に同時に存在していなければなりません。
上記「無形性」の特徴と合わせて、“サービス”は作り置き(在庫)できない、という特徴を生むことになります。消費に合わせて提供するため、モノと比べて生産する時間が限定されますし、生産場所を他の場所に移動できない(モノのように輸送できない)、という制約が生じることになります。
結果とプロセス、どちらも大事(結果とプロセスの等価的重要性)
サービスは活動といえます。顧客はサービス活動の結果だけでなく、プロセスも体験する必要があります。サービスは顧客にとって、提供プロセスから始まる体験ともいうこともできます。そのため、プロセスにも品質が求められることになります。
顧客と共同で作られる(顧客との共同生産)
消費者(顧客)と共同で作られ、消費されるという特徴もあります。前項でも触れたように、対人サービスは、顧客を対象とする活動です。サービスの提供活動は、顧客との相互作用の形をとります。サービスの生産が上手くいくためには、顧客も生産へ積極的な役割を担わなければなりません。
コロナ禍の今、サービス提供のあり方を見直す時期
こうした特徴の他、サービスには、
●一過性(1回ごとであって、まったく同一の生産ができないこと)
●不可逆性(起こったことを元に戻せないこと)
●認識の困難性(サービスであると認識し難いこと)
●品質のバラツキ性(サービスの品質がその度、また顧客ごとに異なること)
などが生じてきます。
サービスは、こうした特徴を持つために、モノの製造の場合とは異なる生産・販売の仕組みを必要とします。いくらサービスが良くても、顧客に品質が伝えにくく、サービスをどうやって顧客に届けるか、といった、サービス特有のマーケティングの諸課題を生じさせることになります。
これまでも企業は、このような特性を考慮しつつ、制約を上手に克服して、提供してきたと思います。それでも、筆者はサービスの生産性が低く止まっている現状には、こうした特徴を上手く制御できていないことが背景にあるのではないかと考えます。サービスの持つ特徴を上手に克服できれば、まだまだ生産性が高まる余地があるのではないでしょうか。
今、新型コロナウィルスは、既存のサービス提供プロセスに“3密を避ける”、“在宅勤務”といった新たな制約を課すことになりました。
一方で、時間と場所の制約を解き放つ、ICT(情報通信技術)が急激に進歩、浸透しつつあります。今まさに、これまでのサービス提供のあり方を、見直す時期にあるといえます。
コストが今まで以上に高くつくがこれまでと同様カスタマイズ重視でいくか、これをきっかけに、サービスをデザインし直して、コロナ時代に合わせたサービスをデザインし直すか。
読者の皆様には、“サービス”とは何か、について理解し、これからのサービス提供のあり方を考える機会としていただき、ピンチをチャンスに変えて頂きたいと思います。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング執行役員 川合 和人
- 1997年 南山大学卒。MBA。中堅・ベンチャー企業の業績管理制度構築や業務改善、経営計画策定、事業再構築等のコンサルティング業務に従事。幅広い分野で経営者、経理責任者の参謀役として活躍中。
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