4月の倒産件数、28%増
日経新聞(2024年5月11日付)によれば、2024年4月の企業倒産件数は783件(昨年対比+28%)に上ったとのことです。
昨年より各企業で徐々にコロナ融資の返済が始まっていることや、円安等に起因する材料高、人手不足等がコロナ禍で過剰債務を抱えた企業の資金繰り悪化をもたらしているとの分析がなされています。
このような状況の中、倒産一歩手前で踏みとどまる経営者のご支援を筆者は事業再生コンサルとして担っていますが、目下、取り組んでいる事例を紹介したいと思います。
事例紹介
【事例のクライアント】
業種:食品製造業
年商:25億
銀行借入金:70億超
工場設備や製品特性から相当額の運転資金が必要な資産構造はわかりますが、それでも、年商の3倍近くの銀行借入金は異常値です。
何故、ここまで借入金が膨らんだか?この理由を社長に伺うと、
コロナ直前で着工した新工場の建築資金を借入金で調達したため、借入金残高が肥大化。
コロナ渦による事業収支悪化からの回復遅れも合わさり、借入金の返済が覚束なくなったとのことです。
なるほど…。
ですが、更に、2つの視点で事実を詳らかにしていきます。
銀行借入金肥大化の真相
一つ目は、新工場建築の目的です。
これを伺うと、競合との差別化製品を製造するため、また、工場稼働費の抑制をはかるため、最新鋭の設備を入れたかったとのことです。
二つ目は、設備投資の意思決定時点における投資回収の見通しです。
これを伺うと、社長は建築資材の値段が上がったとか、モゴモゴ、言葉を濁します。
ズバリ、『設備投資計画』の有無を伺うと、明確な物は無い。
筆者は思わず、『設備投資計画も無く、投資に踏み切り、数十億の借金を背負うのは、社長、無謀過ぎますよ!』と言ってしまいました。
設備投資計画とは
社長からご提示いただけるはず、と思っていた『設備投資計画』とは、
- 設備投資の目的
- 個々の設備投資内容、金額、発注予定先、総投資予定額
- 着工から竣工、稼働までの大まかなスケジュール
- 設備投資による経済的効果(増加フリー・キャッシュ・フロー(以下、増加FCF))
- 設備投資に紐づく調達資金の返済見通し
等が記載されたものです。
相対的に多額の投資意思決定をする場合は、会社としてその策定が必須なものと筆者は考えます。
投資計画で特に重要な“2つの計数”
この中で、計数面で重要なのは、増加FCFと総投資予定額です。
事例のクライアントでいえば、増加FCFは、この設備投資で実現する差別化製品がいくらでどれだけ販売できるか、水道光熱費等の工場稼働費がどの程度抑制できるか、をもとに見込むことになります。
キャッシュ・フローで計算するのが煩雑であれば、上記の要素を反映した設備投資後の予想損益計算書を作成し、増分の償却前経常利益等で代用することも可能だと思います。
また、総投資予定額をこの増加FCF(年換算)で割り算した数値が、投資回収年数です。
これは、何年すれば投資の元がとれるか、を示した指標です。
当然、短期であれば投資回収のリスクは低く、長期であればリスクは高まります。
どの程度の投資回収年数が適切かは、その事業内容や設備投資内容によりますが、不動産投資が投資内容に含まれていたとしても、20年を超えるような回収年数の場合は長い、と筆者は感じます。
無謀な投資をしないために
記載のとおり、事例のクライアントは投資の入り口で『設備投資計画』が無かったため、良いもの良いもの、あれもこれもと投資額の歯止めが利かなくなってしまったようです。
売上高を3倍にしたとしても、投資回収に25年かかる、と数字でとらえていれば、社長ももう少し投資額を抑制できたはず、と悔やまれるところです。
設備投資をご検討される場合には、無謀な投資とならないためにも、しっかりとした『設備投資計画』を策定されることを強くおすすめします。
なお、事例のクラインアントは、一定の事業性は認められ、これをもって、なんとか銀行から足元の資金不足を補う資金調達の目途がつきそうな状況です。
これから、差別化製品をどう販売していくのか、他の拠点の統廃合を含めた事業の選択と集中をどうするのか等々、自社製品と従業員への愛情溢れるチャーミングな社長とのディスカッションを筆者はコンサルタントとして真剣に楽しみ、良い方向にお導き差し上げたいと思っている次第です。
株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングは、ファイブステップコンサル(調査分析→問題発見→課題整理→改革提案→実行支援)として中小企業の経営改善に関する様々なお悩みに対し、現状分析から課題解決のためのご支援を行っています。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 公認会計士 森下 大
- 1999年 早稲田大学卒。中堅中小企業の事業再生・買収のアドバイザーとして、財務・事業デューデリジェンス、経営計画策定支援を中心としたコンサルティング業務、並びに、計画経営推進のための経営顧問業務に従事。公認会計士としての知識・経験を活かし、社長の良き相談相手として伴走型の支援を行うことで定評がある。
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