2020年初めから始まったコロナ禍は、足元で感染者数が過去最高を更新する状況が続くなど収まる気配がありません。
4、5月には政府による緊急事態宣言が発令され、筆者のクライアントである中小企業各社は、経営面で大きな打撃を受けました。
足元でも、経済環境は戻り切っておらず、昨年対比で売上高が7割程度に落ち込んでいるクライアントが大部分です。
そのような中、政府からは新型コロナウイルス感染症関連の支援策が数多く出されています。
政府の支援策の概要は、経済産業省のHPに公開されている支援策パフレットにまとめられていますので、一度ご確認いただくことをお勧めします。
数多くある支援策の中で、効果が大きいと感じているものに
「雇用調整助成金の特例措置(助成内容の拡充、受給要件の緩和)」
があります。
以下、この助成金の活用方法を、筆者が重要視している損益分岐点比率という経営指標に関連させてご説明します。
損益分岐点比率とは
損益分岐点比率とは、売上高に対して、損益が赤字と黒字の分岐点となる売上高(損益分岐点売上高:BEP Break-even point)が何%かを表す指標です。
損益分岐点比率が80%であれば、たとえ売上高が20%減少しても黒字を維持することができることを示しています。
損益分岐点比率が低ければ低いほど、売上高の低下圧力に対して黒字を維持する力が強いことを示しています。
つまり、損益分岐点比率が低い企業であれば、コロナ禍による売上低下局面でも業績の大幅悪化を免れ、生き残ることが可能となります。
損益分岐点比率の算定方法に関しては、別の記事などで詳しい説明がありますので、そちらで確認ください。
▼ご参考「損益分岐点比率に注目しよう!逆風下に耐えうる経営とは?」
損益分岐点比率を引き下げるため方法
さて、損益分岐点比率を引き下げるための1つの方策として、固定費の変動費化があります。
変動費とは、売上高の増減に比例して発生する費用(材料費や外注費など)
固定費とは、売上高の増減に比例しない費用(人件費など)
を言います。
つまり、固定費の変動費化とは、固定的に発生する費用を売上高の増減に比例して発生する費用に切り替えることです。
たとえば、商品の運搬を金額が定額のチャーター便(トラック単位の契約)から、商品の量に応じて金額が決まる混載便(荷物1つあたりの料金)へ切り替えることなどがあたります。
固定費の変動費化を進めることで、売上高が低下する局面では、売上高の低下に合わせて費用の発生を防ぐことが出来るため、収益を確保しやすくなります。
一般的に固定費の中で大きなウェイトを占めているのは人件費です。
コロナ禍においては、冒頭にご紹介した雇用調整助成金を活用することで、人件費を実質的に変動費へ切り替えることが可能となります。
売上高の減少に合わせて、従業員の勤務日数・勤務時間を削減し、削減した勤務日数・勤務時間は休業とし、休業手当を支払います。
この休業手当に関して、雇用調整助成金を申請することにより、企業の実質的な人件費負担は実際の勤務時間にかかるもののみとなり、売上の変動に合わせた人件費へとコントロールすることが可能となります。
今回の未曾有の事態であるコロナ禍によって、数多くの中小企業が苦しんでいます。
コロナ禍が終息するまでの間、何としてでも生き残ることが最重要です。
政府の支援策も活用しながら、1社でも多くの中小企業がこのコロナ禍を生き抜いていかれることを祈っております。
なお、雇用調整助成金の特例措置は、先日政府が来年2月末までの延長を決定しています。
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置を延長します」
財源の枯渇が危ぶまれていますが、企業の雇用維持が最優先との政府判断は正しいと思います。これから申請をお考えの企業で相談を希望される場合は、こちらからお問い合わせください。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員
中小企業診断士 辻 裕之 - 銀行系システム会社、NRIデータサービス(現野村総合研究所)を経て、アタックスに参画。中堅中小企業を中心に、企業再生、M&Aサポート、計画経営推進、管理体制整備、経営顧問業務など幅広い業務にあたるオールラウンダーなプロジェクトマネージャーとして活躍中。
- 辻 裕之の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。