新型コロナウイルス感染症の影響が長引いていることによって、輸出が減少し、十分な受注がない製造業などは、いまだ休業せざるをえない企業が散見されます。
このような状況に鑑み、当初、9月末を期限とした雇用調整助成金の特例措置が、本年12月末まで延長されました。
実績支給額は、1.5兆円に積み増されていた予算を突破しており、この助成金によって、多くの雇用が守られると同時に、多くの企業の倒産が防止されていることが推察できます。
企業が倒産する理由は、収入よりも支出が膨らんでしまい赤字を改善することができないからです。
一般的な企業において、収入で最も大きいのは売上高であり、固定的な支出で最も大きいのは人件費です。
従って、売上高の減少に見合った人件費の減少ができれば、倒産しないことになります。
今回の雇用調整助成金は、人件費を補填することで、倒産を回避する役割を果たしています。
雇用調整助成金が切れた後が問題
ただし、雇用調整助成金の期限は、本年12月末までとなるので、それ以降は、自助努力で、「自社の獲得する売上高で自社の大切な社員を守る」必要があります。
また、中長期的に「自社の大切な社員を守る」ためには、昇級等による給与水準の上昇が必要となり、その原資として、売上高の成長が不可欠となります。
中長期的な売上高の成長を実現するには、経営資源の中で最も大切な「ヒト」に関する要員計画および人件費計画が必要となり、特に、戦略的な要員計画の重要性が高まっています。
なお、要員計画とは、「売上高等の財務重点目標を実現するために必要な事業・機能ごとの最適配置を前提とした人員数計画」と定義できます。
要員計画を策定する3つのポイント
この計画を策定する際のポイントは、以下の3点です。
量と質、両面から検討し、施策を分けて考える
例えば、「5年後の売上高目標を現在の1.5倍としたい」とします。
この際の目標売上高を「社員数×一人当たり売上高」と分解し、「量をあらわす社員数」「質をあらわす一人当たり売上高」それぞれにおいて、具体的な数値計画および施策を考える必要があります。
「量を増やす」のであれば、採用が重要な施策となり、「質を増やす」のであれば、教育が重要な施策となるのが一般的です。
実現可能な想定組織図の作成する
具体的な人員数計画に基づき、5年後の想定組織図を作成することはとても重要です。
作成した組織図の課長以上の重要な役職者全てに、現在所属する人員の具体的な名前が入るのが望ましい状況です。
もしも、現管理職の定年退職等により、社内に適任が見つからない場合は、外部からの採用も考えなければなりません。
しかし、過去の経験から中堅中小企業が管理職を外部から採用した場合の成功確率はかなり低いので、まずは、自社へのロイヤリティが高い社員の内部昇格から検討すべきです。
また、その部門に適切な役職者を配置できない場合は、外部との協力関係も検討する必要があります。
経営資源の配分を見直す
全ての事業について、均一的に、人員を割り当てるのではなく、成熟事業の生産性を高めて人員数を一定または減少させる一方で、成長事業の生産性は横ばいと見て人員を積極的に投入するというような経営資源の再配分を行う必要があります。
また、将来の経営戦略的機能(研究・開発・企画)を担う部門に関しては、長期安定経営のために、一定割合で人財投資をすべきです。
過去の中堅中小企業における要員の問題は、定着率の高いベテランの活躍や、外国人労働者や非正規社員の活用等により、何とかクリアできていました。
しかしながら、今後、少子高齢化で15歳から64歳の生産年齢人口の減少が加速するのと同時に、同一労働同一賃金の導入等により、採用環境は従来よりも厳しくなるものと推測されます。そうすると、必然的に人件費は上昇していくものと思われます。
従って、今後の中堅中小企業における要員の問題は、まずもって成り行きでは何ともならない重要な問題と認識すべきです。
その上で、要員の「量」や「質」を徹底的にマネジメントしていく能力を強化することが企業経営継続のための必須要件です。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 錦見 直樹
- 1987年 富山大学卒。月次決算制度を中心とした業績管理制度の構築や経理に関する業務改善指導を中心としたコンサルティング業務に従事。グループ7社を有す中小企業の経理・経営企画部門出向中に培った豊富な経理実務経験を武器に、経営者、経理責任者の参謀役として活躍中。
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