清月記~被災者を支援する被災地の企業

経営

先般、宮城県仙台市で学会が開催された折、仙台駅からタクシーで20分ほど走った場所にある「清月記」という社名の中小企業を訪問してきた。訪問のきっかけは、東日本大震災で自社・自身も甚大な被害を受けたにもかかわらず、その事業の使命と役割を果たすべく、その後、約2ヶ月間、全社一丸となり、不眠不休で被災された地域住民に奉仕をし続けた中小企業があると聞いたからである。

「清月記」は現社長である菅原氏が、小学校5年生の時、描いた人生設計どおり、大学卒業後、同業者で1年の修業をした後、両親の支援を受け1985年スタートした葬儀業である。仙台市内には現在44社の葬儀業があるが、その中で「清月記」は最後発の企業である。

しかしながら、創業以来一貫して「業界の常識は世間の非常識」と、古き・悪しき慣習や制度を創造的に破壊していくとともに、一人ひとりのお客様に対しては、「絶対にノーと言わない」感動サービスを提供し続けた。こうした努力の甲斐あって、着実に市民の評価を高めていき、その業績は創業以来25年連続右肩上がりであるばかりか、今や仙台市内は言うに及ばず、東北・北海道地区でみても最大規模になるまでに成長発展している。

こうした正しい経営を愚直一途に貫いてきた「清月記」に対しても、3月11日の東日本大震災は容赦なく襲いかかり、甚大な被害を与えた。当社は仙台市を中心に岩手県内等に10数ヶ所の斎場や仏壇・仏具の販売店を有しているが、その内数ヶ所は、床上浸水や半壊状態、そればかりか、全ての斎場で什器・備品や販売店の商品類も多大な被害を受けた。

こうした未曾有の状況というのに、翌3月12日には当社の250名の全社員が出社し「今こそ当社の使命を果たそう…」と誓い合った。そして、比較的被害の少なかった斎場を整理し、身元の分からない遺体の仮安置所として県に提供し、その尊厳を守り続けたばかりか、別の斎場は全国各地から続々と送られてくる棺の倉庫として提供した。

そればかりか、最も過酷で困難な遺体の仮埋葬や、その後の再び掘りおこしをする作業等も、全国各地から派遣された自衛隊員と共同し行ってくれたのである。これだけで頭の下がる思いであるが、当社はさらに「祈りのシンボルである仏壇をも失った人々のために、京都のメーカーに「ミニ仏壇」を発注し、なんと1,500世帯に無償で提供している。

一方この間、当社の飲食部門は、社員と家族や地域住民の命と生活を守るため、食材を無償で提供し続けた。

関係業者とはいえ、こんなにも利他の心で、献身的にがんばる中小企業の存在を見せつけられると、「傍観者であってはならない…」、「利他の心を持て…」と、声を大にして言いたい。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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