長野県塩尻市に「サイベックコーポレーション」という社名のプレス部品メーカーがある。創業は1973年、現在の売上高は17億円、社員数は70名である。
こういうと、どこにでもある普通の「プレス屋さん」をイメージする読者が多いと思うが、それは誤解である。
というのは、当社の直近の経常利益額は4億円、つまり売上高経常利益率は23%であり、しかもこうした超高収益体質が長期に渡り持続しているからである。
ちなみに全国の金属プレス部品メーカーの業績は、赤字企業が約80%、黒字企業の平均利益率は約5%である。そればかりか、当社が取引している大手自動車メーカーや大
手部品メーカーの利益率は3~5%程度だからである。
ではなぜ当社の業績は安定的に高いのであろうか、その要因は多々あるが、ここでは2点に絞り紹介する。
第1点は、当社は単なるプレス部品屋ではなく、プレス部品の一貫生産メーカーだからである。
わが国のプレス部品メーカーは、発注者から金型を支給されプレス加工のみ行うか、貸与された金型図面に基づき、金型製作からプレス加工までを行うのが一般的である。
しかしながら、当社では、発注者から欲しい部品のスペックを聴取すると、その部品の生産のための金型の設計から制作、さらにはそのプレス加工を
自社またはプレスメーカーと共同開発した専用のプレス機械で一貫生産している。
近年、金型の設計製作能力のあるプレスメーカーは、増加傾向にあるとはいえ、プレス機械までも自家製という企業はほとんどない。
第2点は、当社が生産するプレス部品は、全てこの世に存在しないプレス部品だからである。
一般的にプレスメーカーの営業活動は既存のプレス部品を、いかに、他社とは「Q・D・C」やスピードが優れたモノを生産することができるかが、決め手である。しかしながら、当社の営業活動はそうしたことは一切しない。
つまり当社のマーケットは、既存のプレス部品ではなく、この世に存在しないプレス部品の創造提案なのである。もっとはっきりというと、これまで切削加工や溶接加工・組立で製品精度や形状を創っていた部品を、当社の革命的技術で、チップレス化・一体化するという技術である。しかもその価格はというと、これまでの価格の二分の一程度どころか、三分の一とか、十分の一、さらには三十分の一になることもある。
空洞化を凌ぐプレス部品メーカーの経営のあり方・進め方が示唆される。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。