盛髙鍛冶刃物~創業1293年の中小企業

経営

熊本県八代市の住宅地の一角に「盛髙鍛冶刃物株式会社」という社名の刃物の製造小売り企業がある。従業員は家族を中心に7名、主製品は社名同様、包丁やハサミ、さらには鎌や鍬などの農機具類である。

こういうと、どこにでもある小さな金物屋さんと勘違いされそうであるが、その内容は、驚くべきことばかりである。その驚くべき内容を3点に絞り述べる。

第1点は、当社の創業年で、当社の資料によると、創業は今から719年前の1293年であり、現在の社長である盛髙経博氏は何と27代目である。時代が鎌倉時代ということもあり、元々は刀剣類を製作していたが、現在は包丁や農機具類である。この間、幾多の困難があったが、伝統の灯を消してはならないと、代々子供に引き継がれ、今日に至っている。第2点は、単に刃物を製造し、流通業者に卸すという経営ではなく、売り場の奥にある工場で、1本ずつ丁寧に手作りで製作された刃物を、その場で、売るという「製販一体型」の企業なのである。

我が国の代表的刃物産地である「関市」「越前市」「三条市」そして「三木市」等の大半の企業は、製造機能しか持たない、いわゆる下請企業であるが、当社は「自分で考えたものを自分で創り・自分で売る」という2.5次産業なのである。

第3点は、販売先で、現在の当社の売上高の40%は輸出である。しかも、そのほとんどは欧米諸国向けである。

元々は国内向けが中心であったが、円高経済や、アジア等からの低価格品の攻勢もあり、価格競争力ではなく非価格競争力で新たな活路を見出すため、あえて高級品というマーケットに狭め、市場を先進国に求めたのである。

輸出のきっかけは、海外見本市への出店や海外の専門誌の活用、さらに言えば、インターネットの活用等である。

熟練の刃物製造職人の高品質な手作り刃物は、あっという間に、欧米の料理人に知れ渡り、輸出が拡大していったのである。ちなみに気になる値段はというと、家庭用の包丁が概ね1本1万円~2万円、鍬も1万円前後である。ホームセンターの商品の5倍以上である。にもかかわらず、売れ続けているのは、切れ味はもとより寿命が長いからである。

こうした「盛髙鍛冶刃物」の経営は、これからのわが国モノづくり中小企業の今後のあり方を示唆していると言える。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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