近年、大規模なショッピングセンターやGMSの出店、さらにはブランド力高い全国チェーン店の攻勢等が相まって、地方のいわゆるお菓子屋さんの業況は総じて厳しい。
事実、事業所統計で「菓子・パン小売業」の動向をみると、この僅か10年間でも、3万5千店舗、率にして30%のお店が消滅している。
では、地方の小規模な「菓子・パン小売業」は皆ダメかというと決してそうではない。その1つが「株式会社菓匠 Shimizu」である。お店の所在地は、長野県伊那市、社員数は32名である。
創業は1947年(昭和22年)、現社長清水慎一さんの祖父の正人氏が、現在地近くで、夫婦で和菓子屋としてスタートしている。現在の主力商品は洋菓子である。
創業以来、「奉仕を先に利を後に…」というモットーで、流行や景気を一切負わない「石橋を叩いて渡る…」ような、堅実経営を続けている。
この結果、65年経過した今、社員数は32名、お店は1店舗ながら、その業績はなんと65年連続増収増益である。
当社がこれほど長きにわたり好業績を実現し続けている要因は、景気や流行を一切負わない経営の考え方・すすめ方も大きいが、もう1つは顧客、とりわけ地域密着の経営にあると思われる。
より具体的に言えば、地元農家と連携をした素材創りや地元住民の幸せ創り・絆創りのための「夢ケーキづくり」である。ちなみに当社のお菓子の素材であるブルーベリーやイチゴ、牛乳・卵等、大半の素材は、地元農家との連携によるものである。
もっとはっきり言えば、農家と一緒になって、お客様が感動・感嘆・感銘するような、身体にいいお菓子を創っているのである。そればかりか、もしも気候等で農家の生産量に大きな変動があった場合、お菓子の開発や生産で調整し、農家の生活費を支援しているという。
「夢ケーキづくり」も表彰ものである。これは、地域の子供たちに将来の夢を、家族と相談しながら、絵に描き、「菓匠 Shimizu」に送ってもらい、その絵のケーキを、当社の工房で、家族皆で菓子職人のアドバイスを受けながら、創るというものである。
その目的は「ケーキ作りを通じ家族団らんのお役に立ちたい…、子供たちに夢を持って欲しい…」からである。
その日は1年に1回で8月8日、当日「夢ケーキづくり」に参加する子供(家族)は、年々増え続け今や、約1000組という。しかも無償である。家族皆で創り終え帰るとき、涙ぐむ家族も少なからずいるという。
こうしたお菓子屋さんの存在を知ると、「正しい経営は決して滅びない」と再確認できるとともに、「利他の経営」こそ、時代が求めている正しい経営であるといっても過言ではない。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。