東北新幹線の二戸駅から車で10分ほど走ったロードサイドに「小松製菓」という社名の会社がある。主製品は南部せんべいで、この分野では後発メーカーであったが、今や業界のトップメーカーである。
当社の創業は、戦後の混乱が続く昭和23年、現経営者である小松務氏の母親「シキ」さんが一人でスタートしている。「シキ」さんは、自著「むすんでひらいて」の中でも述べられているが、幼少のころから筆句に尽くしがたいご苦労をした方である。
苦労が実り、多くの支援者にも恵まれ、その後年々成長発展し、今や社員数240名、売上高は約30億円という、南部せんべい業界のトップメーカーである。
とはいえ業界全体が成長発展しているかというと、真逆である。事実、業界の企業数はピークである戦前には600社を数えていたが、その後年々減少し今や約50社に激減しているのである。
こうした中にあって、当社がゆっくりとはいえ着実に成長発展してきた要因は、多々あるが、ここでは2点指摘しておく。
第1点は、新商品開発への熱心な取り組みである。南部せんべいというと、種類が限定で昔ながらの商品というイメージが強いが、当社は毎年のように南部せんべいにさまざまな新しい付加価値をつけ販売している。
これまで当社が開発したオリジナル商品は55種類、サイズやパッケージの違いを含めると、500アイテムは優に超す。こうした開発姿勢は単にお菓子だけではなく、お菓子の製造機械にまで及び、今や当社の大半の機械は社内製作である。
第2点は、人本経営の実践である。創業者である小松シキさんは、自身が丁稚奉公先や舅・姑等との関係で想像を絶する肉体的・精神的ご苦労をしてきたこともあり、自身が経営者になった時は、社員や顧客等を問わず、人間尊重・個性尊重の経営を貫いている。
こうした経営姿勢は二代目である現経営者小松務氏の代になると一段と充実強化されている。
例えば、平成14年には業界に先駆けて、定年を一気に65歳に引き上げるとともに、1年更新とはいえ70歳までの雇用を保障している。そればかりか、「小松製菓退職年金制度」(幸せ会)を立ち上げ、80歳まで年2回、わずかとはいえ年金を支給している。
しかもそれを振り込みではなく、あえて、そのために開店した「四季の里」という名の和風料理店に食事を招待しているのである。その時のスナップ写真を見せていただいたが、その顔は満面の笑みであった。
こうした企業の存在を見せつけられると、経営者の経営の考え方・進め方で、企業の盛衰は決まるといえる。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。