順徳矢崎に学べ

経営

先般、中国広州の佛山市にある順徳矢崎の工場を訪問した。場所は香港から車で約2時間走った工業区にある。

今回訪問した順徳矢崎は、静岡県の東から西に多くの生産拠点を有し、県内有数の雇用貢献企業でもある矢崎グループの中国現地法人である。

矢崎グループは現在中国各地に19か所の拠点があり、計3万5千人の従業員が就業しているが、順徳工場はその1つで、従業員数は2,400人、生産品目は自動車用ワイヤーハーネスである。

今回当社を訪問したきっかけは、中国各地を転々とし、中国に進出した日系工場を知り尽くしている親しいある大手商社のバイヤーの紹介で、その内容は「ストライキは多発し、離職率も30%以上が常識といわれる中国に進出した外資系企業で、ストライキはほとんど発生しないばかりか、離職率も他社と比較し大きく下回るいい企業がある…」と筆者に教えてくれたからである。

その日は、早朝から訪問し、工場はもとより食堂や福利厚生施設等すべてを見せていただいたが、当社では、なぜストライキが起きないのか・なぜ離職率が低いのか…が、よく理解できた。

工場内は5Sが行き届き、美しいばかりか、従業員の身体的な負担を軽減するため、立ち仕事をする従業員の足元の床にはスポンジマットを敷いてあった。また従業員のすぐ後ろには休憩用の椅子が用意されていた。

一体、この会社はどこまで従業員に優しいのかを確かめるため、あえて工場内のトイレを見たが、なんと全てがウォシュレット式であった。当日は工場内の食堂での朝食風景を見るため、スタッフに引率され7時15分に朝食会場に訪問した。

これまた驚くことばかりであった。そのすべてをこの紙面に到底書き尽くせないが、社員食堂は、まるでレストランのような雰囲気で、しかも、メニューは日本食はもとより、従業員の出身地に合わせてコックを雇用し、なんと8種類から選ぶことができる。ちなみに、その価格はというと朝食が0元、昼食が1元、そして夕食が2元である。

これは寮に住む従業員が多いということもあるが、最大の目的は、経済的な理由で食事をとらない従業員に、真に体にいい食生活をして欲しいからという。

何よりも驚いたことは、食堂の入り口で当番の従業員に交じって、当社の社長である杉山さんが立ち、食堂に入ってくる従業員一人一人に、笑顔で挨拶をし続けていたことである。

案内してくれた張さんは「杉山社長は雨の日も風の日も、毎日ここに立って、私たちを迎えてくれています。この方を困らせるようなことはできません…」と目を真っ赤にし、話してくれた。

「正しい経営には国境などない」ということを教えてくれるいい会社である。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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