社員満足度と企業業績は両立することを証明する中小企業

経営

群馬県前橋市に頭文字がAという廃棄物の収集運搬を業とする中小企業がある。正直この業界は、仕事が大変な割には業績が伴わず、結果として、社員の給料は低く、万年人手不足といった状況が一般的である。

しかしながら、A社の実態を見ると、業界の平均とは全く異なり、業績が右肩上がりどころか、近年の利益率は業界平均の1~2%をはるかに上回る10%以上である。そうした好業績であることもあり、社員の給料は年収ベースでは、業界平均の倍のなんと823万円という桁外れの高賃金企業である。

加えて言えば、3K・5Kなどとも言われ、業界で常態化している高い離職率も当社は実質ゼロ状態であるばかりか、当社では人手不足どころか、入社希望の求職者が、はるか先まで列をなしている状態である。

ではなぜ当社は、こんなにも高い業績と成長を持続することができるのであろうか。その要因は多々あるが、ここでは2点に絞り述べる。 第1は、徹底した社員重視経営の実践である。

当社の社員数は51名であるが、全社員が正社員、それどころか全社員が株主でもある。しかも社員持ち株会の持ち分比率は、何と社長のそれをはるかに上回る40%である。まさに全社員が社員であると同時に経営者でもある企業である。つまり、社長がいい加減な経営をすれば、社員が社長の首のすげ替えができる企業である。

加えて言えば、当社の定年は実質65歳定年、その後も社員が希望すれば、いつまでも働くことができる。さらに言えば、社員の家族を支援するため、その社員の生活実態に合わせた勤務形態を選択することができる。

いやはや驚くべき社員重視の企業である。そこまで社員第一主義経営を実践する目的を、H社長は言う。「会社は何のために存在しているのかと問われたら、私の答えは、社員とその家族の幸福のため…」と。

第2は、自立連携型経営の実践である。

別の用語でいえば「オリジナリティ&ネットワーク経営の実践」である。つまり、経営資源を多方面に分散させず、自社は比較優位の独自の分野に特化する経営の実践である。もとより、市場は利便性の高い専門業者を求めていることは事実であり、このため当社では強い技術を保有する多数の有力な外部企業と有機的連携をし、ワンストップ型の創造・提案が可能な経営スタイルをとっているのである。

ちなみにA社は廃棄物処理業者とはいえ、中間処理場や最終処分場を一切保有せず、廃棄物の収集・運搬に特化している。しかも有害・無害を問わず全品目の収集・運搬ができる全国でも稀有な企業である。そして廃棄物の処理・処分は関東地区の100社以上の専門業者と強力な連携をし、顧客のニーズに合わせた最適な処分場に繋いでいる。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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