HITOYOSHI~地域の雇用を守るために立ち上がる

経営

熊本県の人吉市に「HITOYOSHI」という社名の中小企業がある。主事業は高級ドレスシャツの生産・販売である。製品の90%は国内外のブランドメーカーに対するOEM生産で、残り10%は自社ブランド商品で、販売は高級百貨店からの受注販売である。社員数は110名。100名は人吉市のある本社工場、10名は東京青山の東京支店にいる。

同社の設立は、2009年と7年前であるが、これには訳がある。その訳とは、同社は元々、上場アパレルメーカーの100%出資の生産子会社であったが、その本社が2009年に倒産してしまったのである。

通常なら、そのまま生産子会社である工場を閉鎖するのであろうが、当時、生産子会社の社長を務めていた現工場長の竹長一幸氏や、当時、本社の取締役であった現社長の吉國武氏らが中心となり、地域雇用を守るため、事情を察したある投資家の支援を得ながら、MBOで立ち上げた受け皿会社なのである。

当時、国内のシャツメーカーの大半は、生産や調達の海外現地化の拡大を進めていたが、二人は、その限界を感じ、あえて「メイド・イン・ジャパン」にこだわる戦略をとった。このため、生地はもとよりボタン等も一級の素材(ボタンはプラスチックではなく貝)を使用し、手作りで、かつ多品種小ロット、つまり「少々高くてもいいシャツを着たい…」層にターゲットを絞ったのである。

また生産や販売も、余裕がない中、在庫を積み増してしまう見込み生産ではなく、ブランドメーカーからのOEM生産や国内高級百貨店からの受注生産、つまり「必ず買ってくれる価値あるシャツづくり」にこだわったのである。

ちなみに、同社の商品アイテムは数百以上あるが、その大半の生産ロットは5枚から20枚程度、中には1枚物もあるという。また気になる価格であるが、市販では1万円から2万円のシャツが多いという。

ともあれ、こうした新たな経営戦略が市場の高い評価を受けることに成功し、この間、同社の業績は右肩上がりに高まっている。社員数もピーク時150名、倒産直前には70名にまで減員していたが、現在は110名にまで増加し、地域雇用を下支えしている。

先日、同社の隣にある中小企業大学校人吉校で講義のため、人吉に行く機会があったので、講義の前、訪問させていただき、竹長工場長の案内で工場内を見させていただいた。 空調が効いた明るい美しい工場内では、約100人の社員(90%は女性)が、縫製作業や裁断作業をしていたが、正直、アジアの企業ならともかく、これほど多くの女性社員がミシンを踏む光景を国内では久方ぶりに見た。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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