ふらここ~季節性の高い商品でも成長発展できる

経営

東京日本橋に株式会社「ふらここ」という社名の中小企業がある。主事業は雛人形・五月人形の製造販売、社員数は約20名である。

設立は今から8年前の2008年、現社長である原美洋氏が自宅の一室でスタートした企業である。

同業界は、人口が右肩上がりに増加していた時代は威勢を誇ったが、近年は、少子化や核家族化・生活様式の変化などで、衰退傾向が著しい。

こうした厳しい環境下で、あえて創業したのが「ふらここ」であるが、同社の業績は、2008年の創業から今日まで右肩上がりで、その業績を高めている。

ではなぜ衰退産業といわれている「雛人形・五月人形」の業界にあって、同社は、この間一貫して成長発展してきたのであろうか。その要因は多々あるが、ここでは3点に絞り述べる。

第1点は、潜在需要の発掘・提案である。

上述したように、同業界の最大問題は少子化もさることながら、関係世帯の3分の2の家族が、近年、雛人形・五月人形を買っていないという実態である。

業界の関係者の多くは、その原因を住宅事情や、嗜好の変化と見る中、ふらここの原社長は「消費者は買わない・買いたくない」ではなく、「買いたい雛人形・五月人形がない」と評価したのである。そこで購買決定権者である20歳代の後半から30代のお母さん方にターゲットを絞り、市場調査を重ね、制作したのが現在の商品群である。

ふらここの雛具・雛人形は40cm程度の空間に飾ることのできる、小さな人形である。加えて言えば、その人形の顔もかつての人形の常識であった「うりざね顔」ではなく、1歳から2歳の子供をイメージした「童顔」。しかも、その形は卵を横にしたような顔である。

第2点は、製販一体のビジネスモデルの構築である。

当業界の製造・販売組織は歴史的に製造業者と、それを販売する業者とが明確に分かれ、棲み分けをしてきた。しかしながら、ふらここは「顧客のニーズ・ウォンツにマッチした商品でなければ支持されない」と考え、販売店任せの流通・販売から「自分で考えたものを自分で売る…」という製販一体型のビジネスモデルを構築したのである。

そして、その販売方法は、ネット販売を高度に利活用したのである。金額もかさむ商品であり、また手に取り購買を決定する商品と思われるが、当社の商品の信頼度は高く、近年においては、購入し返品された事例はほぼ皆無という。

第3点は職人を大切にする経営の実践である。

当業界のキーマンは、専門職人である。価値ある専門職人の有無により、業界の盛衰は決定するにもかかわらず、これまで必ずしもこうした職人を大事にする経営が行われてきたとは言い難い。季節商品ということもあり、専門職人への支払いはもとより、その生産も極めて季節性が強いのである。これでは専門職人が育ち定着するはずはないが、ふらここはそこを逆手に取り、職人の経営や家計が安定する経営を実践してきたのである。

ふらここのケースを見ると、商品が悪いと嘆く多くの経営者の声が言い訳でしかないことがよく分かる。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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