先般、社会人大学院生たち約20名で台湾の企業を視察してきた。訪問先は台北の企業2社と高雄の企業の2社の計4社である。
台北の2社の1社は、台湾で今、大学生が最も入社したい会社といわれている外食企業、もう1社は、日本の大学で学んだ若者が創業した貿易会社である。そして高雄の2社の1社は、産業用照明器具メーカーと、リサイクルビジネスを展開する企業である。
訪問する数ヶ月前から、台湾に詳しい社会人大学院生の経営者が、現地の親しい友人に「人、とりわけ社員を大切にしている企業」を視察したいというリクエストを出していたこともあり、4社ともが「社員とその家族を大切にするいい会社」ばかりであった。
ここでは、4社すべてを述べることはできないので、そのうちの1社、高雄市のリサイクル企業について述べる。
同社の社名は「サイバーテック有限公司」といい、現社長「陳」氏が様々な職業を経験した後、リサイクルビジネスの将来性に着目し、1996年に現在地で創業している。事業内容は、コピー機等のカートリッジのリサイクルである。
より具体的に言えば、廃棄されたカートリッジ等を同社のネットワークで収集し、それを再生し、再び充填し販売する事業である。現在の社員数は約80名、この業界では台湾ナンバーワンの企業である。
同社の経営理念は「お客様への信頼・約束」。経営のモットーは「社会や社員に申しわけの立たない経営をしない」であり、創業20年間、人を大切にする経営を貫いている。
「リストラはしない」「長時間残業はさせない」「社員は家族」といった経営がそうであるが、そのことが全従業員の心に深く浸透していることは、工場見学の時の生産現場で働く全従業員の目つき・顔つきで十分すぎるほど証明された。
より驚かされたのは、工場見学の後、会議室で私たち一人ひとりに出されたカットされた数種類の果物の盛り付けであった。
陳社長は、嬉しそうな顔をして「この果物は、当社の社員の畑で今朝、採れたものだそうです。数日前、日本から大切なお客様が来られると社員に話したら、社員が朝早くから準備してくれました。どうぞ召し上がってください…」といった。
筆者が「今日は特別ですか…」と質問すると、後ろに座っていた年配の女性社員が「いつもそうしています。社長のお客様は、私たちにとっても大切なお客様だから…」と、ニコニコ顔で答えてくれた。
それだけで同社が社員第一主義経営を実践することは十分証明された。
最後に「貴社のような社員第一主義経営を実践されている企業は、台湾国内でおおよそ何割くらいありますか」と質問した。
陳社長は「約1割です」と回答した。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。