交通手段が主として自動車である地方においては、車を運転できない要介護者や高齢者、さらには障がい者や妊娠中や子育て中の母親は、交通弱者となっている。
とりわけ、地方の過疎地域や小さな町では、循環バスの撤退や、若者の地域離れが拡大していることもあり、車による移動手段がないと、日常の買い物どころか病院に行くこともままならなくなる。
こうした中、タクシー会社を選んだ企業人として、地域の交通弱者を見て見ぬふりはできないと、献身的にその人々を支え続けているタクシー会社がある。
そのタクシー会社は、仙台駅から15分ほど車で走った仙台市の郊外に本社がある「フタバタクシー」である。現在、保有しているタクシー台数は51台と、それほど大きなタクシー会社ではないが、その経営は表彰モノである。
というのは、その内、私たちが日常的に利用する普通のタクシーは23台しかなく、残り28台は、車いすのまま、乗車できる福祉タクシーや大型の患者輸送の車両である。
それだけでも驚かされるが、より驚くのは同社では「障がい者支援タクシー」というサービスも、関係者から依頼され、見て見ぬ振りができず行っている。
これは、移動が不便・困難な障がいのある児童や生徒を、学校や施設に送迎する等、日常の生活での移動を支援するサービスである。そのために改造した専用タクシーも、なんと5台も保有している。
さらに近年では、地域の要望が強く、子育て中の家庭の学童や、妊婦の移動をサポートする「子育てタクシー」事業にも参入している。
こうしたこともあり、同社のドライバーの大半は、介護の資格を持っている。
フタバタクシーの関係者、とりわけ、その中心である及川社長の長年の苦労と努力がようやく実り、今や高齢者や障がい者、さらには子育て中の女性などから絶大な信頼を勝ち取り、その利用者は年々増加している。
こうしたフタバタクシーの確たる信頼と結果としてのその業績を見ると、慢性的なドライバー不足と、収益の低迷、結果としてのドライバーの低賃金に喘ぐ業界に、大きなヒントを与えてくれる。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。