工業統計調査によると、わが国工業生産額は約305兆円である。
これを業種別にみると、自動車を代表とする輸送用機器が約60兆円、以下、化学工業の28兆円、食料品の26兆円、鉄鋼の19兆円、そして工作機械を中核とする生産用機械が17兆円などと続く。
自動車を中核とする輸送用機械は、わが国工業生産額の19.7%を占める最大産業である。
加えて言えば、金属製品や鉄鋼、生産機械、非鉄金属、電子、プラスチック、そしてゴム工業などは、少なく見ても、その50%以上は自動車が市場である。
そこで、これら業種の合計生産額である88兆円の半分の44兆円をプラスすると、自動車産業の生産額は104兆円。つまり、わが国工業生産額のなんと34.1%を占めるのである。
わが国モノづくり産業は、一人、自動車産業に過度に依存しているのである。
それゆえ、もしも自動車産業に深刻な問題が発生したならば、わが国経済は同じく深刻な状況に陥るといっても過言ではない。
つまり、わが国工業は極めてアンバランスな業種構成と言える。しかも、過去20年以上、自動車産業の生産シェアは年々高まっているのである。
こうした構造は、早急に戦略的に変えていかなければならない。
と言うのは、自動車産業は、既に国内は決定的に成熟化しているばかりか、少子高齢化の影響もあり、右肩下がりの業界になってきている。
加えて言えば、電気自動車への移行や、メーカー間の戦略的連携、さらには部品の共通化や一体化の進行は、関連産業のビジネスチャンスを将来大きく減少させていくと思われる。
だからこそ、もう1つの国際的比較優位な産業の台頭が強く望まれるのである。
わが国モノづくり産業が、とりわけ参入して欲しい産業は医療機器分野である。と言うのは、医療機器の生産額は僅か1.9兆円と、わが国工業生産高の僅か0.7%しかなく、輸入浸透度、つまり輸入品の占める割合は53.9%なのである。
つまり、国内で使用されている医療機器の過半数以上は、海外の医療器メーカーに依存しているのである。
わが国産業の発展史を見ると、大半は輸入品(舶来品)の国産化がスタートであり、その意味でも、是非とも多くの中堅・中小企業にチャレンジして欲しいのである。
医療器産業は、自動車産業とは異なり、業界は多品種少量市場であり、その加工精度はもとより高品質が要求される。
だからこそ、わが国中堅・中小企業が担うべきと言える。
わが国医療機器産業が、近い将来、外貨を稼ぐ産業になったとき、わが国モノづくり産業は、再び世界から評価・尊敬されるに違いない。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。